図書館2(小説)

□ターニングポイント
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力づくで手に入れるつもりなら、遠の昔にそうしている。
岬が俺を心から望んでくれるまで、待とうと決めていたし、そうさせる自信もあった。
それが。

『…僕も若林くんが好きだよ。たぶん。』

翼が結婚した日に岬はそう言うのだ。何かを諦めたような瞳で。
縋るように見つめられて、俺は動揺した。
たとえお前の瞳に俺が映っていなくても、一時凌ぎの感情でも、今俺を必要とするならそれでも構わないと、そう思いそうになる。
慌てて視線を逸らした。
違う。
俺が望んでいるのは、そんな関係じゃない。



「今日、一緒に寝てもいい?昔みたいに。」
結婚式の二次会から引き上げて、ホテルに戻った途端、岬はそう言った。
岬がまだフランスにいて、ドイツにいる俺を訪ねてくれた時、俺たちは大抵同じベッドで寝ていた。話が尽きなかったからだ。
「久しぶりだな。こうやって寝るの。」
「うん。」
ベッドが狭く感じるのは、俺たちの体があの時より成長しているせい。
触れ合う位置に岬の身体。
今夜、岬は語り明かしたいのかもしれない。
「良い結婚式だったね。」
「そうだな。」
幸せそうに笑う新郎新婦と仲間達の祝福。
「しかし、まさか翼が一番に結婚するとは思わなかったな。」
「うん。僕も驚いた。」
くすりと岬は笑う。
「サッカーしか目に入ってないと思ってたのに。ちゃんと考えていたんだね。大切な人の事。凄いな。」
お互いに向き合って、視線を合わせて話すと、岬の顔が物凄く近くなる。
翼が、羨ましい。
あいつはこれからずっと、最愛の人といつだって一緒にいられるのだ。
「岬、寂しいんじゃないか?」
からかうつもりで言ったのに、岬は笑わなかった。
「…そっか。寂しいのか。そうだね、そうかもしれない。…もしかして、若林くんも寂しいの?」
「いや。俺は、別に。」
羨ましいだけだ。
目の前にいる、俺の最愛の岬の心は、いつも翼に向かっている。
「対抗戦の時からだろ。あの二人。俺だって同じだ。」
相手を想う時間は同じだったのに。
俺は指一本触れるどころか、返事すらもらっていない。
どんなに真剣に告げても、岬は微笑むだけ。
「岬が好きだ。」
それなのに今夜に限って。今、寂しいと言ったばかりのくせに。
縋るような瞳で。
岬は。
「…僕も若林くんが好きだよ。たぶん。」
無理をしていると、そう思った。
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