図書館4(小説)

□寒い冬が暖かい訳
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「…え、なに?」
ニヤニヤ笑いが引っかかる。
何で今の答えで、そんな笑い方になるの?
「いや、…お前さ、首筋めちゃくちゃ敏感で、弱いもんな。」
声を落として囁かれた。
明らかに何かを含んだ口調で。
「…なっ」
なんてこと言うんだ、いきなり。こんな往来で。
しかも今、絶対変な事を思い出してる。
あ、あれは。僕が弱いんじゃなくて。
それだけじゃなくて。
だって。若林くんの、唇が。
「岬、顔赤いぞ。何考えてるんだ、やらしいな?」
…あああ、もうっ。
これじゃあ若林くんの思う壷じゃないか。
「やらしいのは若林くんの方だろっ!」
「ああ。まあな。それは否定はしない。」
ひどく楽しそうに笑って、若林くんは自分のマフラーをほどくと、僕の首にフワリと回した。
不意に首筋を包み込む優しい暖かさにゾクッと身体が震えてしまう。
ふんわり柔らかくて温かい。まるで若林くんの体温をそのままもらったみたいだ。
「それ、マフラーにもよると思うぜ?…これはどうだ?…チクチクする?」
「……あ、…ううん。」
「苦しいか?」
「……大丈夫。」
「じゃあ、これ岬にやる。」
「っ!そんな駄目だよ!」
若林くんが愛用してるものなのに。
「あのな、中古だぞ。遠慮すんな。嫌なら新品買うぞ?」
「……どんな脅し文句だよ、それ。」
「クリーニングして後で返すなんて言うなよ?…今日は俺の誕生日なんだから、素直にもらっとけ。」
「でも、そしたら、今度は若林くんが寒くなっちゃうよ。」
「いや。俺、今はあんまり寒くないし、マフラーは他にもあるしな。それに…」
若林くんはじっと僕を見つめてくる。
「そのマフラー、…結構似合ってるぜ?」
そう言って、若林くんは目を細めて優しく笑った。
僕が思わず見とれて、動けなくなってしまうくらい。
心臓がドキドキして、身体中熱くなってしまうくらい。
…とても、幸せそうに。



END
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