図書館1(小説)

□プライベートな事情
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俺はヘフナーを見る。こいつは顔に似合わず面倒見がいい。
「…岬が」
昨夜の出来事だけでも信じられないのに、今朝、更に信じられない事が起こった。
まさか、岬が。
「岬がどうした?」
俺は真剣な眼差しでヘフナーを見つめる。
「岬が、行ってらっしゃいのチューしてくれなかった…。」
「……………。」
「こんなこと初めてだ。」
「……………。」
「昨夜から口きいてくれないし。」
「…じゃーな。」
席を立とうとしたヘフナーを捉まえる。
「話聞いてくれるんだろ?」
「今、聞いただろ。ってか、只の痴話ゲンカじゃねーか。どうせお前が悪いに決まってるんだから、さっさと謝っちまえ。」
「謝った。でもまだ怒ってるんだ。」
「別れろ。」
「嫌だ。」
「じゃ、さっさと仲直りしろ。」
「わかってる。」
そんなことは、わかってるんだが。
ヘフナーは軽く溜息をつく。
「原因はわかってるんだろ?」
「たぶん。」
昨夜のエッチ。
「それもう二度とするな。」
「不可能。」
即答すると、ヘフナーが脱力した。
「お前はミサキとエッチとどっちが大事なんだよ。」
「ミサキに決まってるだろ!」
叫んでから気付く。
「何でバレてんだ?」
「お前らが毎回似たようなことでケンカするからだろ。」
そう。
前回は確か。
しがみついてくる岬が愛しくて、その身体をベッドに縛り付けた。
岬は驚いたように俺を見つめ、愛撫が始まると本気で嫌がり、泣きだしてしまった。
あの時も大変だった。暫くさせてくれなかった。
「お前が無茶な要求するから、岬が嫌がるんだろ。学習しろ、いい加減。」
「俺がそんな事するか。物凄く控えめにしてるぞ。」
あの時も、縛ったのは手首だけだ。
「だーかーらー、岬はお前とは違うんだ。嫌なもんはしょうがないだろ。だいたいミサキは同意してるのか?」
「は?」
「お前に抱かれるのが、そもそも嫌なんじゃねーの?」

『…いらない。』

「え?」
考えた事もなかった。
「え?嫌?俺が?」
「俺が知るか。ミサキに聞けよ。」
確かにその通りだ。
「わかってると思うが、これ以上サッカーにプライベートを持ち込むのは止めろよな。岬が来てから、ムラがありすぎなんだよ、お前は。」
「俺はいつだって真剣にサッカーをしているぞ。ただ岬の方が大事なだけだ。」
大真面目に力説する俺を、ヘフナーは冷めた目で見る。
「お前もう日本に帰れ。」
「嫌だ。」
「なら、岬と別れろ。」
「断る。」
「じゃあ、今日中に仲直りしろよ。いいな?」
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