図書館1(小説)

□夏の始まりの日(前編)
2ページ/2ページ

…キスが巧い。
一方的なキスを受け続けているだけなのに、力が抜けてしまいそうになる。
…ダメだ、このままじゃ…
必死にもがく僕の身体から少しずつ力が抜けていく。相手がそれに気付き、油断した瞬間に、容赦なく相手の唇を咬んだ。
「…つっ…!」
辛うじて相手の唇から逃れて、肩で呼吸する。
口の中に自分のではない血の味が広がった。怒りだすかと思った相手は、何故か笑った。
「へえ?結構本気だしたのに。お気に召さなかったみたいだな。」
相手は悪怯れもせず、舌をだしてぺろりと自分の唇の傷を舐める。僕を見つめて、細くなる瞳。
「お前の反応って面白いな。俺を本気にさせるなんて褒めてやるよ。」
「…っ…!」
「暴れても無駄だぜ?」
逃げようとした腕をあっさりとられ押さえつけられる。荒事の経験はやはり相手の方が上だ。
相手が悪い。勝てる気がしない。
「いいのか?抵抗しなくて。」
唇が触れるほどの近くで囁かれる。相手の口元に浮かぶのは勝者の笑み。
蹴り上げようとした足は難なく掴まれ、片足を持ち上げられたまま背中を壁に押しつけられる。
「お前先刻から俺を誘ってんのか?」
反論する暇もなく、また唇を塞がれた。
「ここでやってやろうか?それとも人気のないところに場所を変えようか?」
身動きできない僕の唇をたっぷりと堪能した後で、相手は余裕の笑みを見せる。
…その目は笑っていない。
僕は、肩で荒い呼吸を繰り返す。
唇が濡れて、唾液が端から零れ落ちていた。
片足で立たされたまま、長々と濃厚なディープキスを受けたので、身体がふらついている。
「俺は別にどっちでもいいぜ。決めろよ、言わなきゃ、このままやる。」
往来だというのに、何の躊躇もなく、僕の首筋に顔を埋め、無防備に開かされた下半身に手を伸ばし、シャツを捲り上げてくる。
「やだっ。やめて。こんなとこじゃ…。」
僕は本気で哀願した。
「じゃ、俺の家に来いよ。今すぐ遊んでやってもいいけど残念、今日はこの後予定があるからな。」
結局、夕方の訪問を強制的に約束させられ、それでようやく解放された。
暫く呆然とした後、本来の目的を思い出して、修哲小に向かう。
そして漸く辿り着いたそのグランドで、先程別れたばかりの相手が、敵チームのゴールキーパーとして立っているのを目撃することになった。



END
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ