宝物部屋(戴き物小説)

□GW
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  -side Izawa-

「井沢、なに?」
雨の部室でミーティング中。浦辺や石崎やらは補習中。来生と滝は委員会なので、俺と岬と新田で先に始めている。俺が呼んだのに、岬が振り返って、俺は一瞬どきっとする。こんなに色っぽかったっけ?
岬とはコンビを組んで2年目。全国各地の羨望や嫉妬にも慣れたし、コンビなんだから呼び捨てにしろ、という俺の要求に岬も慣れた頃。
確かに子供の頃から可愛い顔をしていた。それが、幼さが抜けていくにつれ、美人になった。
顔立ちは変わらない。それなのに、何だか綺麗になった気がする。
「何さ、人の顔じろじろ見て」
岬は、五月蝿そうに手を振ったが、かえって気になる。
「いや・・・岬って綺麗だな、と思って」
俺の台詞に岬は露骨に嫌そうな顔をした。
「キューティクル完璧の井沢に言われたくないな」
かく言う俺だって結構イケているので、俺と岬のコンビは南葛イケメンコンビなんてビジュアル系扱い。翼がいた時よりも、サッカー以外のファンが増えたような。

「確かに岬さんは綺麗だと思います!」
横から入って来た新田に、岬はさらに嫌そうな顔である。まあ、新田のような年下の可愛いのに綺麗と言われたら、俺も嫌だ。
「顔、とかじゃなくて、何かオーラが違うっていうか・・・色気があるというか」
俺の言葉に岬が目を丸くした。
「・・・僕、男だよ」
「・・・知ってる」
たいていの男が敵わない位「漢」。気持ちもさっぱりしているし、意志も強くて、大人の男前。女性に対しては完璧なジェントルマン。
「バカなこと言ってないで。で、このフォーメーションだけど・・・」
頭は切れるし、冷静だし。でも冷静過ぎる訳じゃなくて、熱い魂を持っている。
「おっ、奇策じゃん」
「でしょ?奇襲攻撃も試してみたいし。明日、石崎くん立たせてやってみない?」
めちゃくちゃ楽しそうに岬が笑っている。本当にサッカー好きだもんな。他に何も要らない位。かなりモテるくせに、一向に彼女を作らない。サッカーが恋人なんだ、なんて可愛い顔で言ったりしている。恋人、で思い出した。こないだメアド交換した子、まだデートしてないや。
「そういえば、GWはどうするんだ?」
他の連中は里帰りしたりするから、部としてはお休み。岬が練習しないなら俺も自主練で良いんだけど…。
「休み中出て来るなら付き合うぜ」
「俺も付き合いますよ」
新田がまたもやしゃしゃり出てくる。この超生意気な新田は岬にはなついている。フランスでのジュニアユース大会、一見綺麗で可愛いこの岬の華麗なプレーと男らしさ、潔さにまいったらしい。スカウトを蹴飛ばして南葛に来た。
「せっかくだけどゴメン、GWはちょっと・・・」
らしくもなく言い淀むのを見て、ピンときた。
「岬、恋人に会いに行くんだろ」
不意打ちだったせいか、岬はぱっと赤くなった。・・・不意打ちが効くとは思わなかったこっちの方が呆然とする。
「そ・・・そんなんじゃないよ」
岬が動揺するところを見られるとは。白い頬を桜色に染めて、耳まで真っ赤な様子は本当に可愛い。
「あずみちゃんだっけ?」
確かフランスの彼女の名前。岬は一瞬目を見開いて、すっと立ち上がった。
「顔洗ってくる」
ぱたぱたと軽い足音。もっと反応してくれると思っていた俺は拍子抜けして、新田と顔を見合わせた。
「岬さんって、絶対その辺の女子より可愛いですよね」
女子って言うな、新田。プラス息を呑むな。あれはお前より年上の男で、年功序列厳しい運動部の先輩だぞ。
「でも彼女に会いに行くんだぜ」
つい俺まで感慨深げに言ってしまったが。

「ごめん、あんまりからかうから」
戻ってきた岬は顔の紅潮こそ少しひいているものの、目はうるうる。濡れた前髪が額にかかって。優しい笑顔はその気のない俺でも守ってやりたくなってしまう。
「恋人によろしくな」
「だから、そんなんじゃないって・・・」
また少し赤くなった。こんな岬が彼女といるところなんて、想像できないな・・・。
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