宝物部屋(戴き物小説)

□お子様ランチ
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「なんかお子様ランチみてえ」
お昼ご飯、せっかくの自信作に対する評価に、岬がふくれる。
「うるさいな。要らないんだったら、僕が食べるよ」
「いや、食うのがもったいないな、と思ってな」
確かに、冷蔵庫の中をすっきりさせようと思った岬が、いろいろちょこちょこ作って、最近骨董市で見かけた大きなプレートに、盛り付けただけだ。ただ、岬自身の技量とセンスがありすぎて、それは必要以上に素敵な外観のものとなり、若林の評価を頂くに至った。
「あ、ありがとう」
岬は顔をほころばせながら、お子様ランチ、が素敵な言葉だった時代を思い出す。

 子供の頃、やはりお子様ランチに憧れた。でも、お子様ランチを出すようなお店は高嶺の花。定食屋にはお子様ランチなんかなくて。
「あのね、隣の席の山田くんがね、昨日お子様ランチ食べたんだって。ハンバーグにウインナーに、えびフライにサラダに、でね赤いご飯には日本の旗が立ってるんだって。それにデザートにプリンまで付いてるんだって」
「ふ…む」
父さんは聞いているのか聞いていないのか。首をひねりつつ、キャンバスから目をそらさない。
「ねえ、父さんったら」
僕が腕を掴むと父さんはゆっくりと僕を振り返った。
「それで、太郎はどうしたいんだ?」
…そりゃ、食べてみたいに決まってる。だって、想像しただけでも胸が高まるような食べ物だもん。山田くんは食べるのがもったいない、なんて言ってた。お皿は車の形だったって。でも、それを言うと父さん困るでしょ?
「…ごめんね、邪魔して」
それしか言えなかった。
 その後、何となく家にいづらくて、外に遊びに行った。家に帰り着いた時に見たのは、お子様ランチだった。自分が言ったようなメニューが小さなお皿に並び、チキンライスの旗は手描きで。大きな身体を揺らしながら、父が盛り付けてくれたかと思うと、嬉しくて仕方なかった。
「父さん、有難う」
抱きついた岬に、父が微笑んだ。

「ねえ、若林くん」
「なんだ?」
振り向いた若林に、岬は手描きの旗を見せる。
「どこのにしようかと思ったんだけど、これしかないでしょ?」
白地に赤の旗。二人で一緒に戦う時のしるし。
「お、本格的だな」
若林が微笑む。きっとあの時の自分もそうだったと岬は思う。人が喜ぶ顔は嬉しい。大事な人だからよけいに。
 若林は岬から受け取った旗を刺した「若林様ランチ」を前に、いつもより若干子供っぽい表情である。
「ねえ、若林くんはお子様ランチ好き?」
「んー、兄貴達にバカにされるのと量が少ないから食べなかったけど…本当は好きだったな」
非常にらしいことを言ってから、若林は手を合わせた。
「だから、嬉しいぜ。頂きます」

 結局自分のプレートにも旗を飾り、楽しそうに「お子様ランチ」を食べる岬を若林は眺めた。何だかとても機嫌がいいらしい。
「若林くん、美味しい?」
「ああ。とっても。お子様ランチもたまには良いな」
「うん。また時々作るよ」
好きな人と一緒に食べる食事はそれだけでも美味しくなる。美味しいものを食べて、隣には好きな人がいて。幸せだとは分かっている。だが、どうせならその幸せを完璧にしたい。
 食べ終わって、いつものように食器を洗いに立ちざま、若林は岬の横を通り過ぎた。
「ごちそうさま。おいしかったよ。ついでにデザートももらっとくな」
通りすがりにキスを盗みながら、「お子様ランチ」を「大人ランチ」に変えた若林は、やはりお子様ランチでは満足できない人間であった。



終わり
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