宝物部屋(戴き物小説)

□慕情
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ここはこの国の王、若林の私室。
そこには国王の他に、国の北部にあたるフラノ地区を治める松山、彼は頻発している不穏な魔物の動きを報告及び今後の戦闘に関しての軍事会議に参じたのだ。そして国付きの占者である岬がいた。
そこへ怒りもあらわにドアを蹴散らし、息を切らして男が飛び込んできた。若林の巧妙な策略に嵌まり不本意ながらもつい最近、参謀となった日向だ。
「若林!いちいち俺を呼ぶな!!」
若林は落ち着き払い、当然のように言ってのけた。
「呼んで何が悪い。魔物との戦いにおいて、お前は俺の大事な片腕。常に俺のそば近くに居ろと言ったはずだが」
「魔物とは戦う。が…俺は俺のやりたいようにやらせてもらうと言っておいたはずだがな…」
と、真っ向から反論した。
そこで若林は、何故かフッと笑みをこぼし全く関係ないような質問を日向にぶつけた。
「岬を呼んだのは何故だと思う」
思いもよらなかった問いに対し、日向は意味がわからないと言いたげだが半ば呆れたかのように
「こいつはお前の大事な大事な占者様だろう」
と嫌味を込めつつも律義に答えたが、鋭い眼光は若林を捕らえたままだ。
「ほぅ…」
と若林は意味ありげに日向を見据えた。
睨み合いはしばらく続いたが、日頃から短気な日向は根負けしたかの様に、壁をドンと拳で叩き
「…こいつの様子がおかしいからだ」
と、言い放った。
それを聞いた若林は勝ち誇ったような笑みで
「俺はお前のそういうところを好いている。お前は他人(ヒト)を惹く…良くも悪くもな」
そう言うと若林は立ち上がり、ゆっくり岬に近づいた。
先程から窓辺で二人のやりとりに笑みを浮かべながら聞いていた松山が日向の台詞に反応し、いつもと変わらない様にみえる岬を見つめた。
確かに普段は岬を戦闘に関わらせないようにしている国王が、戦闘準備に関する話し合いに成り得るはずの場所に、岬を同席させるのはおかしいとは思っていた。しかし具合が悪いようには見えない。どこからみても普段と変わりなくみえるのだ。そんな松山の視線に気付いた岬はいつもと変わりない柔らかい微笑みを返した。
怪訝そうな松山を余所に、岬の前まで来た若林は
「俺の他にも気付いた奴はいたようだな。お前の負けだ。今後も軍事に関わる事は許さん」
岬は、一度俯いて顔をあげニコッとしたかと思うとフラ〜と後ろに倒れかかった。それを片腕で支えた若林は、慌てて駆け寄った松山と日向に
「お前たちは、しばらく待機していろ」
と怒気を含んだような声色で命じた。それを遮るように岬は
「大丈夫です…こんな時に寝こむ訳にはいかない…」
そして顔をあげ真っ直ぐ松山を見据え
「松山…。君の話が聞きたい」
と、若林の胸から離れた。そして
「いいですよね?」
と、若林を見つめた。
若林は岬の頬に片手を触れ
「…だめだ」
と、軽々と岬を抱き上げた。
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