宝物部屋(戴き物小説)
□遊園地に行こう
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「よし、遊園地に行こう」
「どうしたの?突然」
「急に行きたくなったんだ。嫌か?」
「ううん。そういえば僕、遊園地って行ったことなかった…」
「じゃ尚更だ。ほら、行くぞ」
「え?今から?だってもう5時過ぎてるよ?行ってもすぐ閉まっちゃうんじゃ…」
「遊園地はこれからがいいんだぜ」
閉園までもうあと30分くらいしかないとゆう時間に目的地に着いたが、空はすっかり夜に変わっていた。
散々遊んでさぁ帰ろうとこちらに向かってくる人波をよそに、若林くんは僕がはぐれないようにしっかりと手を握ったままどんどん波に逆らって進んでいく。
「ジェットコースターはまた今度な。今日は散歩だから」
「散歩?」
「ぶらっと公園に散歩に来た感覚」
こういう若林くんのおもしろい発想にしょっちゅう驚くのだが、ちっとも悪い気はしなかった。むしろ嬉しかったり…
散歩というにはバタバタと忙しないが、遊園地とはどんなところなのか内心わくわくしていた。
奥へ進むたびに胸がドキドキと高鳴った。夜だというおかげで無数の光がキラキラと宝石みたいに綺麗で、まるで夢の世界に迷い込んだようだった。
閉園間もないということで人もまばらで、きっといくらもいられないだろうに若林くんは変わらず手をつかんだまま更に奥へと僕を誘う。
「時間もないからとりあえず、これ」
――うわぁ。メリーゴーランド
絵本やテレビで見たことはあったが実物を見たのはこの歳になって初めてだった。
可愛らしい装飾に思わずうっとりしていたら
「まぁ男ふたりでメリーゴーランドってのもあれだけど」
バツ悪そうに若林くんが言うので
「そうだね」
と笑って答えた。
タイミングがいいというか、閉園ギリギリにメリーゴーランドに乗ろうとする人なんて(しかも男2人)僕らの他に誰もいなかった。
「では。どうぞ、岬姫」
この際だ、とふざけて若林くんは僕を馬車に乗せてくれようと、かしこまった風に手を差し出す。
「あはは。若林王子?」
「王子ってガラじゃねぇよな」
「そんなことないよ。強くて優しい格好いい王子様って感じだよ」
めずらしく照れくさそうにはにかんだ若林くんは僕を無事、馬車に乗せると、さすがに大人2人は一緒に乗れそうにないので、白馬の王子様よろしく、僕の乗った馬車をひく馬にまたがった。
メルヘンチックな音楽が流れる中、キラキラ輝く光と共に馬車はゆっくり動きだす。
若林くんはとびきり、王子様顔負けの優しい笑顔で時々こちらを振り返る。
その幸せそうな笑顔が光に溶けてとても眩しかった。
景色は暗闇。ともすれば夜空を飛んでるような錯覚。
このまま…僕達はどこに行くんだろう。
終了と同時に残念ながら閉園時間となり、僕達は遊園地を後にした。
「すごく楽しかった。誘ってくれてありがとうね」
「いや。俺が来たかったんだ、岬とさ。今度はゆっくり昼に来ようぜ」
「うん。でも昼間だとメリーゴーランドはちょっと恥ずかしいね」
「な。やっぱアレは夜限定だな。あー、観覧車もいいな。夜景見れるし」
と、突然耳元で
「観覧車なら誰も見てないからキスもできる」
思わず想像して、途端に恥ずかしくなった。
今、僕の顔は相当真っ赤になってる。
だけど…
あの夢のような世界ならばきっと、いつものキスも魔法のキスに変わるのかもしれないね。
夜の遊園地は夢の世界
そこで僕は魔法にかかる
若林くんの恋の魔法に
「帰ったらさっきの続きしようか」
「さっきのって?」
「お姫様ごっこ」
僕の頬は赤いまま
今夜は当分夢から覚めそうになかった。
おしまい