バザール(企画、リクエスト等)

□星に願いを
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穏やかな眠りは、目覚まし時計の電子音によって妨げられた。
傍らを見ると、若林くんも目を覚ましたようで、もぞもぞと動き出している。
時刻は午前三時三十分。
カーテンを開ける。外はまだ真っ暗だ。
「…んー、おはよ。…若林くん、起きられそう?」
「…ん。流石に少し眠いな。」
伸びをする若林くんが、大きな欠伸をする。
それから僕と目が合うと、いつもの軽いキスをした。
「…僕も。…ね、コーヒー淹れようか?」
「頼む。…岬、一緒にシャワー浴びようぜ。目が覚める。」
「うん。待ってて。」
ベッドから起き上がって、僕は真っ直ぐキッチンに足を運ぶ。コーヒーのセットをしてから、若林くんの待つバスルームに向かった。



昼間の内に色々考えて、今夜の特等席を決めておいた。
今回の休暇で若林くんに連れて来られたのは、高原のログハウスだった。
僕達は今その屋根に登っている。
都会とは違う。新月の夜は即ち闇だ。ランタンで足元を照らさなくては何も見えない。
「岬、大丈夫か?」
「うん。」
傾斜した屋根に座りこんでから、灯りを消す。頭上を見上げた。
「うわぁ、凄い。やっぱり良く見えるね。」
「ああ。」
星空が見たいと言ったのは僕だった。
初めて見るような、どこまでも広く深い星空。
シャワーを浴びたばかりだから、風が気持ちいい。
水筒に入れたコーヒーを注いで、早速二人で回し飲みする。
ワクワクする夜のピクニック。
風に混じる緑の匂い。虫の鳴き声。木々を揺らす葉擦れの音。
遥か頭上で瞬く満天の星。それから。
「…あ。」
「見えたか?」
「うん。うわぁ凄い。僕初めて流れ星を見たよ。まだ5分も経ってないのに。こんなにすぐ見れるものなんだね。」
若林くんはコーヒーを啜ってから、僕を見て笑った。
「…願い事は?」
「…忘れてた。」
興奮して見惚れてしまったから。
「でも、とても無理だよ。あんなに一瞬で消えちゃうなんて。…三回言うのってかなり難しいんだね。」
流れ星を見た事がないと言ったら、若林くんが教えてくれた。
ペルセウス座流星群。
今日の明け方は流れ星がたくさん見れるって。
具体的にどのくらい見れるのか、僕は想像がつかなかった。
「どっちが多く見れるか、競争しようぜ。ちなみに俺はもう二個見たぞ。」
「ずるい。見たら僕にも教え…」
キラリと星が流れる。
「今の、見た?」
「いや。…ほら、すぐに消えるから教えられないだろ。ずるくないぞ、俺は。」
「そうだね。」
笑いながら、僕もコーヒーをいただく。その後で二人でゴロリと屋根に寝転がった。
視界いっぱいに広がる美しい星空。
たわいもないお喋りをしながら、夏の夜空を堪能する。
どちらからともなく、お互いの指先を絡ませた。
「……”好き”だったら、三回言えるかな?」
若林くんは幸せそうに笑っている。
「…それはもう俺に伝わってるから、願い事の意味ないんじゃないか?」
流れ星は数分おきに現れて、僕達の目を楽しませてくれる。
まるで流れ星のバーゲンセールだ。
これだけあるんだから、きっと叶うだろう。
…願わくば。
僕は幸せな気持ちで星に願う。
繋いだ指先を握り締めた。

…こうやって、いつまでもずっと、大好きな若林くんの側にいられますように。



END
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