バザール(企画、リクエスト等)

□誓い
1ページ/7ページ

〈一日目〉

「岬くん!」
「岬!」
「岬さん!」
突然、岬が倒れた。
紅白戦の最中、パスを受けるために走っていた岬は、不意にそのまま崩れ落ちるように昏倒した。そのまま起き上がらない。
試合が止まり、慌てて皆が駆け寄る。岬は身体を抱くようにしながら、脂汗を浮かべ苦しんでいる。尋常な様子ではない。
すぐに救急車が呼ばれた。不安な気持ちのまま、俺は遠ざかる救急車を見送った。
結局岬はその日、合宿所に戻っては来なかった。



〈二日目〉

岬が入院した部屋のドアを確かめてノックする。名前を告げて病室に入ると、先客がいた。
「翼。」
「悪いけど、岬くんはまだ体調がよくないみたいだから、別の日にしてあげてよ。俺ももう出るんだ。」
岬の姿は翼の影になって見ることができない。
仕方なく、ただ無言で部屋を出た。

「翼、岬の様子を見たんだろ?どうだったんだ?」
病院の入り口で翼を待った。
「…うん、」
翼の言葉は煮え切らない。
「翼、はっきり言え。岬はそんなにひどいのか?」
詰め寄ると、翼は力なく視線を逸らした。
「命に別状はないよ。ただ……岬くん、もう二度とサッカーができなくなるかもしれない。」
「!」
予想外の言葉に呻いた。
「そんなに、ひどいのか?一体どこが悪いんだ?病名は?」
思わず声を荒げて翼に掴み掛かった。信じられない。昨日まで、岬は普通にサッカーをしていた。
「…先刻さ。」
激昂した俺とは対照的に、翼は冷静な声を出す。
「若林くんの声を聞いた途端、岬くんの様子がおかしくなったよ。隠そうとしてたけど。ものすごく緊張してた。何でだよ?」
唐突な話の展開についていけない。
「は?」
それがなんだというのだろう。俺が知りたいのは岬の病状だ。
「若林くん。岬くんに、何かしなかった?」
何故こんな事を聞かれるのか解らなかった。
ただ何かと問われれば、
心当たりは一つだけあった。だが翼に言える事ではない。
「……」
翼は俺の様子を眺めて、そう、やっぱり若林くんのせいなんだ、と呟いた。
「…最低だよ。」
吐き捨てるように言って、俺の手を払う。
不意に。
思い浮かんだ。
二度とサッカーができなくなるほどの病名。
「まさか。」
奇病だ。発病は稀で、完治はありえない。
「岬くんが退院するまで、病名は口外しないでだってさ。」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ