バザール(企画、リクエスト等)

□RESONANCE
1ページ/2ページ

もう少しだけこのままでいたい。
そう、思ってしまう。
時間は止められないのに。


「岬くん。」
その一言で、全てが伝わる。例え言葉がなくても、アイコンタクトで。ううん。視線すら交わせなくても。僕には翼くんがどこにいて、何をしたいかが、何を一番望んでるかが何故だかわかった。
こんな事は初めてで、こんなに通じあえるのは相手が翼くんの時だけだ。
まるで共鳴。
伝わってくる、想い。
「岬くん、俺ずっと岬くんと一緒にサッカーしたいな。」
練習の帰り道、笑顔で言われた言葉に、やはり僕の心が共鳴を起こす。
うん。僕も。
にっこりと笑い返した。
僕も、翼くんとずっとずっとこのまま一緒にいられたらって思うよ。
心の中だけでそう答えた。言葉にすることはできない。それは絶対に叶わない願いだから。



「岬、元気ないな。どうした?」
練習中、唐突に若林くんからかけられた言葉に驚く。
今日の僕の態度はいつもと変わらないはずだ。体調だって悪くない。
「…え?」
「いや、なんでもないなら、いい。」
僕の頭をポンと軽く叩いて、若林くんは何事もなかったかのように歩み去る。
大きな背中を眺めたまま、僕は動けない。
…どうして?
何もないよ。僕はいつもと同じ。ただ。
父さんの絵が完成した。
…それだけ。
若林くんには、僕の心が伝わってしまうのだろうか。翼くんの心が伝わる僕のように。
若林くんも僕と共鳴してるのかもしれない。
そう、思った。



「翼くん、何?」
決勝戦の前夜、翼くんに呼び出された。人気のない階段の踊り場で僕達は向かい合う。
僕を見つめる真剣な瞳とぶつかった途端、激しい共鳴が始まった。
目が離せなくなる。
翼くんの想いが体中に響き渡る。まるで自分の想いのように。狂おしく。
大切だと、離したくないと、ずっと自分の傍にいてほしいと。
「…岬くん」
締め付けられるような胸の痛みまでそのままに。
「ごめん。」
突然、翼くんにそのまま抱き締められて、僕の頭の中は真っ白になった。それなのに、心の共鳴はますます強くなる。
僕を満たす、好きだ、というひたむきな想い。泣きたくなるほどの。
「渡したくない。誰にも。」
共鳴。その想いは正確に僕に辿り着く。
俺だけを見てほしい。
腕の力が強くなる。
「…岬くん。」
好きなんだ。


翼くんが走り去ってから、僕はどのくらい呆然としていたのだろう。
不意に背後で人の気配がした。
「岬?」
「…若林くん。」
見られた…?!
わからない。心臓が激しく脈打って、自己主張を始める。
駄目だ。こんなに僕が動揺してたら。きっと伝わってしまう。若林くんに。
…正確に。
今、翼くんから求愛された事。
僕が、揺れている事。
「岬。どうした?」
若林くんが近付いてくる。金縛りにあったように、僕は動けない。
僕の想いが揺れている事。他ならぬ、翼くんと若林くんの間で、僕が揺れている事。
若林くんが僕を見つめて、目を細める。
「…翼に何か言われたか?」
「!」
いけない。
共鳴してる。
視線だけで伝わってしまうなら、触れられたりしたら、もっと。
逃げ出そうとした腕を捕られて、引き寄せられる。思わず上げかけた悲鳴は、しかし声にはならなかった。
「…っ!」
目を見開く。
唇を唇で塞がれて、きつく抱き締められている僕がいる。
ああ、僕の想いは、どこまで君に届いてしまっているのだろう。
「俺を選んでくれ。」
そっと離れた唇が、耳元で低く囁く。
これは一体誰の想いだろう。
「お前は誰にも渡さない。」
痛いほどの抱擁。
胸がどうしようもなく疼くのは、果たして誰の想いなのか。
零れ落ちる涙は誰のためのものなのか。
相手を思うほどに切なくて、苦しくて堪らない。
一体どこまでが自分の想いなのだろう。わからなくなるほど互いを思って絡み合う。
純粋な愛しさだけがこみあげた。
「好きだ。」
止まらない、三人の共鳴。


END
次ページはアトガキ
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ