バザール(企画、リクエスト等)

□バレンタインゲーム
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「チョコは今からこの部屋の中に隠すから。制限時間内に見つけられたら若林くんにあげるね。」
岬はニッコリ笑って俺を居間から強引に追い出した。
「制限時間なんてあるのか?」
「…うーん、5分くらいかな?」
「…5分くらい?」
何だそれは。随分と短くないか?
「待っててね、すぐ隠すから。」
岬はドアの向こうに消える。待つほどもなく、入っていいよ、と岬の声がした。
俺は居間に入る。岬はソファに座ってニコニコと俺を見ている。
とりあえず視線を周囲にザッと走らせた。目に見える場所にはない。
キャビネットの扉を開けたり、引き出しの中を探ったり、岬をどかしてソファを探ってみたが、チョコはない。
「大きさは?」
「トリュフサイズ。小さいよ。」
確かに小さい。
俺はテレビの裏を覗いてみる。
「…それ、制限時間内に見つけられなかったら、俺は今年貰えないのか?」
「ううん。再チャレンジ。」
「へ?」
「僕だって若林くんにあげたいもん。」
「それなら、そのまま渡してくれてもいいんだぞ?」
岬は笑う。
「ううん。若林くんに探してほしいんだ。…あ、ごめん時間切れ。」
時間切れって。
「…なぁ、制限時間ってる必要か?」
再チャレンジできるんだろ。
「うん、必要。じゃ、次はどこに隠そうかな。…あ、キッチンにする。」
岬はウキウキと台所に向かう。
俺は岬の合図を待って、探し出す。戸棚や冷蔵庫を開ける。引き出しの中、鍋の中。ない。
「ないぞ。」
「あるよ。隠したもん。」
ドアを背にして立っている岬を振り返る。
「どこに?」
「内緒。」
恨めしく岬を見つめる。
早く岬のチョコが欲しい。
……あ、そうか。
不意にピンときた。
俺はまっすぐに岬に向かう。
「…解ったぜ。」
岬は嬉しそうに笑った。
「でももう時間切れだよ。じゃあ、次は若林くんの部屋ね。」
岬を追って、私室のドアを開ける。
岬はいない。
代わりにベッドが丸く盛り上がっていた。
俺はまっすぐにベッドに向かって布団を捲り上げる。
「岬が持ってるんだろ?」
ベッドの中から現れた岬に確信を持って伝えると、岬はただ微笑んだ。
抱き込んでいた岬の両手を開かせる。ない。
胸ポケットに手を入れて探る。擽ったそうに岬が身をよじらせた。
ジーンズのポケット、何も入っていない。
更に中かと思ってシャツのボタンを外す。
シャツを開いてもただ岬の綺麗な白い肌が現れただけだ。
「…あれ?」
まさか下着の中って事はないだろうし。
おかしいな。岬が持ってると思ったのに。
俺は中途半端に脱がされ、やけに色っぽい姿になってしまった岬を見下ろす。
岬はくすりと笑う。
「……早くしないとなくなっちゃうよ。」
…なくなる?
ああ。そうか。
俺は岬を組み敷いて、顔を近付ける。
「…全く、お前どこで覚えてきたんだよ。こんなこと。」
岬は艶やかに笑う。
柔らかな唇にそっと唇を重ねた。
甘いチョコレートの香り。
間違いない。
「まだ残ってるか?」
「探してみて?」
誘われるままに深く深く口付ける。
舌に触れたチョコレートは二人の熱ですぐに溶けてなくなってしまった。
それでも俺は岬を離さない。
これは俺が貰ったチョコレートだ。
「…岬…」
こんなに甘美で美味なものは他には存在しない。



END
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