バザール2

□コウノさんと一緒・3
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「若林くん、コウノさん、ご飯できたよー。」
軽やかな岬の声がした。
すでに我が物顔で家の中を歩き回り、隙あらば岬に絡みまくるコウノトリを居間で牽制していた俺は、久しぶりに聞く岬の声に喜々として返事をした。
「ああ、今行く。」

そもそも当初の俺の予定では、食事の支度を岬だけに任せきりにするつもりは毛頭なかったのだ。
愛らしくエプロンを身に着けて俺の為にかいがいしく料理の腕を奮う岬を間近で眺め、手伝う。
そして、その合間に抱き締めたりキスをしたりして、照れて赤くなるだろう岬を存分に楽しむつもりだったのだ。それはもう甘く新婚らしく。
だが、俺のそんな甘やかな台所妄想は、最初のキス1回であっさり打ち砕かれた。
「…岬…」
「若林くん、…あの」
「ん?」
「…危ないから、」
「俺の事は気にするな。」
「…ううん。若林くんじゃないの。…コウノさんが。」
片手に包丁を持って困り顔の岬の視線の先を見れば、どこまでもマイペースなこのトリは、岬を正面間近で見るためにいつの間にかまな板の上に乗っていたりする。
「………」
「…調理中は危ないから、…若林くん、コウノさんの相手をしてもらってもいいかな?」
…俺は岬の相手がしたい。
などと言い出せる訳もなく。多少ひきつった笑顔で快く引き受けた。
そのうえ、このトリは岬が抱き上げると大人しいくせに、俺が抱くと暴れるので、仕方なく居間まで退散したのだった。
…ああ全く、こいつさえいなければ。
そう思ってるのはどうやらトリの方も同じらしい。
岬の声がかかるまで、居間では押し殺した怒声とクラッタリングが飛び交う殺伐とした空気が密かに広がっていたのだった。
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