バザール2

□コウノさんと一緒・2
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家に着いて玄関のドアを閉めてから、ただいまのキスをした。
岬は恥ずかしがって頬を染めたが、俺を見上げる瞳はうっとりと甘く潤む。
夜になるまで、まだあと数時間。
だが、これでやっと二人きりだ。
式も済んだ。手続きも済んだ。
「…岬」
俺達は夫婦で、今夜は新婚初夜だ。
誰に何を遠慮する必要がある?
「…え?…あ」
抱き寄せると、何かを察したらしい岬の身体がサッとこわばる。
「…若林くん、」
ずっと大切にしてきた。
この日のために。
「…岬、好きだ」
「…んっ…」
細い腰を更に抱き寄せて、耳元で囁く。耳朶を唇で甘噛みすると、途端に岬の身体が震えた。
「…若林くん駄目っ、」
岬の抗議は受け流して、白く細い首筋をそっと唇で辿る。
俺の服を掴んだ岬の指先が震えた。
「やだ、こんな、所じゃ、」
「ああ。わかってる。」
移動する。後で。もう少し、あと少し、岬を味わってから。
「若林くんっ、…っ」
そんな可愛い声出すな。止まらなくなる。
「…みさき」
バサバサバサバサッカツカツカツカツッ!
「ぅわっ」
唐突に邪魔された。
激しい羽ばたき音とクチバシのクラッタリングに甘い気分も一瞬で吹き飛ぶ。
「あっ、ごめんね、コウノさん。今、出してあげるから。」
岬がサッと離れて、鳥籠に向かう。
解放された鳥は更にカツカツと高らかにクチバシを打ち鳴らし、大きく翼を広げ、何故か俺を威嚇した。
やがて気が済んだのか、ヨタヨタと勝手に廊下を進んでいく。
「………」
「…あっ、コウノさん、部屋を案内してあげる。おいで。」
岬が笑顔で俺から離れていく。
「お、おい、岬。」
「えっと、まずここがリビングで、こっちの部屋が…」


二人きり、………じゃなかった。
今のは明らかにわざとだろう。
あの野郎。
今日から始まる甘いはずの新婚生活にいきなり暗雲が立ち込める。
やけに岬にだけなついている、その小さな白い後ろ姿を睨みつけた。

俺の岬だぞ。
鳥の分際で邪魔しやがって。
…岬は渡さん。



END
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