バザール2

□小ネタ劇場13
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「…僕、モロッコかタイに行こうかなー…。」
「は?」
「…んー、なんでもない。」
待て待て。
そんな恐ろしい独り言をはっきりとつぶやいておいて、何でもないわけないだろう。
「…あー、つかぬことをお伺いしますが?」
「なに、若林くん。」
恐る恐る聞いてみる。
「…女になりたいわけ?」
「そうだね。なれるものなら。」
「おいおい、サッカーはどうすんだ?」
「サッカーは、とりあえず考えないとしてだよ。」
…なんだ、考えないのか。
「僕の恋人がさ、」
「ん?誰だったっけ、Charles?Allan?Oliver?」
「…それ全部別れた。今はEdmund。なかなか僕に手を出してこないんだよね。やっぱり生粋のノンケだからかなー。一週間って新記録なんだけど。」
「は?…ノンケ?そいつ恋人なんだよな?」
「そう。」
「当然、岬が男だって知ってるんだろ?」
「…若林くん、あのさ、」
「なんだ?」
「僕が本気出して、落ちなかった人、いると思う?」
じっと見上げてくる、つぶらな茶色い瞳を見つめ返す。
なるほど。
「…聞いたことないな。」
「僕も見たことないよ。」
「災難だったな、そいつ。」
「人を疫病神みたいに言わないで。災難にあってるのは僕。」
「別れないのか?いつもみたいに。」
「え、別れるよ、もちろん。手を出させてからね。」
にっこり。笑った顔は天使。
「…それで性転換か?…お前そんなことで手術なんかするなよ。」
「しないよ。」
「…しないのかよ。お前、プライド高いくせに、変なところで弱いから。」
「ふぅん。そう?」
「わかってんだろ、自分で。…いや。ま、いいんだけどな。別に。」
お前が本当に望んですることなら。
たとえ会う度に恋人が違っていようが。
次に会った時に性別が変わっていようが。
…そりゃ驚きはするが。
「………」
岬は小さく溜め息をつく。
「…若林くんってさ、」
「ん?」
「よく“鈍感”って言われたりしない?」
「ハッキリそう言うのは、お前とシュナイダーくらいだ。」
「やっぱりね。」



僕が君に本気を出さないのは、僕がおそらく臆病で、しかもプライドが高いから。
生粋のノンケの君は、本当に鈍感だと思うよ。
…本当にね。



END
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