バザール2

□コウノさんと一緒・1
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二人で市役所に行き、婚姻届けを出した。
窓口で申請してコウノトリをもらう。
カバーで覆われた大きな鳥籠の中に、鳥が一羽眠っていた。
鶴によく似た外見。表の看板のオブジェと同じ姿だ。
「コウノトリです。どうぞ。」
カウンターごしに鳥籠を渡され受け取った。
それほど重くはない。
「言葉は解りますが、成鳥してるので話せません。クチバシを打ち鳴らすクラッタリングをします。食べ物は人間と同じ物で大丈夫です。詳しくは同封の取扱説明書をご覧ください。赤ちゃんを運んでくるまでの無期限の貸し出しになりますので、それまで可愛いがってあげてください。…お幸せに。」



「ご機嫌だな、岬?」
市役所を出て、車まで戻る短い道のり。
手を繋いで隣を歩く岬は、いつもにも増して幸せそうに微笑んでいる。
「だって、こうして若林くんと一緒に鳥籠持って歩いてるなんて、嬉しくて。」
見上げる岬の顔に浮かぶ、はにかんだ笑顔。
「そうだな。結婚したって実感するよな。早ければ明日には俺達の子供に会えるかもしれないし。」
「…うん。」
紅く頬を染めてうつ向く岬を横目で見ながら、俺は岬と繋いだ手にそっと力を込めた。
新婚初夜。
待ちに待った新婚初夜。
めくるめく妄想がノンストップで脳内を駆け巡った。
「岬はさ、すぐ子供欲しい?」
「…うん。早くてもいいかなって思ってる。…若林くんは?」
「俺は正直どっちでもいい。子供も好きだけど、このまま暫く岬と二人だけの生活っていうのも堪能してみたいしな。」
「…うん。このコウノトリさん次第だよね。僕も本当はどっちでもいいんだ。…まだ寝てる?」
「ああ。夜行なんだろうな、きっと。」
「家に着いたら、まず挨拶しないとね。コウノトリさんに。」
車に到着してしまったので、キーを解除しドアを開ける。繋いでいた岬の手を最後に軽く握ってから、仕方なく手を離した。
こんなほんの僅かな時間でも岬を離したくないと思う。
運転席に乗りこんで、助手席に落ち着いた岬に鳥籠を渡す。
そのまま頬に手を伸ばし、口付けた。
「駄目、まだ外…」
「外にいる間は我慢したぞ。」
「…もうっ」
赤くなりながら抗議する岬にもう一度口付ける。
「夜までは待つから。」
囁いて、岬の抵抗を封じ込める。
運転してる間は岬に触れられないから、このくらいは許してほしい。
永遠を誓った相手。
少しでも離れると痛みすら伴う。
だから、触れる。もっと触れたくなる。
口付けだけでは、到底足りない。
…羽音が聞こえた気がした。
「…あ」
二人で同時に気付いて、動きを止めた。鳥籠を見つめる。
そっとカバーを持ち上げると、つぶらで大きな瞳のコウノトリが首を傾げながらこちらを見上げていた。
「わぁ…。おはよう。はじめまして。…これからよろしくね。コウノさん。」
はにかみながら岬が挨拶すると、コウノトリは高らかにクチバシを打ち鳴らした。



END
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