バザール2

□初めての夜
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「…岬」
ほんの数時間前に恋人同士になったばかり。
喜びと、…淡い期待。
夕飯を食べた後、夜が更けていくにつれて高鳴る心臓。
不自然にならないように、いつもと同じ位の時間に、いつもと同じように岬をベッドに誘った。
「…おやすみ。」
つぶらな瞳で俺を見上げる岬の頬を両手で包んで、前髪の奥の白い額に、初めてそっと口付けた。
大事にしたいと思う。
ずっと焦がれていた岬がこうして俺を受け入れてくれたのが、まだ夢のようだ。
唇を離して、見つめ合う。
こんな風に口付けても岬が嫌がらない事が嬉しくて、胸が熱く燃えた。
同じ場所に再び軽く口付け、ふわりとした柔らかな両頬にキスを落とす。
そのまま吸い寄せられるように唇を重ねた。
もうずっと前から触れたくて、味わいたくて堪らなかった。
触れた途端、頭の奥が甘く痺れた。



おやすみのキスと呼ぶにはあまりにも優しくて、僕は思わず目を閉じる。
額から頬に。頬から、…唇に。
初めてだとバレたくないのに、不自然に身体に力が入ってしまう。
僕達はもう友達ではなくて、恋人で。
そして同じベッドに入った恋人同士なら、何もせずに眠るだけじゃない。
若林くんに対する自分の気持ちに気付いた時に、全部覚悟した。
好き。
若林くんが好き。大好き。だから。
…若林くんになら、何をされてもいい。
息ができなくなるようなキスの後で、若林くんの熱い腕に強く抱き締められた。



「…岬、」
「うん。」
「…ごめん。」
「何が?」
「こういうキス…嫌だった?」
唇を押し当てた途端に、震えて硬く緊張した身体。
その反応すら愛しくて更に求めてしまったが、急に不安になった。
「ううん。」
柔らかく否定してくれた岬に胸を撫で下ろす。
「嫌だったら、言ってくれよ。」
欲しいのは岬の全てだ。決して身体だけが欲しい訳じゃないし、岬にそう思われたくもない。
岬は俺を好きだと言ってくれた。
俺は岬の為なら、いつまでだって待てる。
「…若林くん、」
無理強いはしたくない。
「安心しろ。今夜はもう何もしないから。」



若林くんはもう一度僕の額に口付けて、おやすみと笑って身体を離した。
嫌だなんて全然思わなかったのに。
童顔は不利だ。
男であることはもっと不利だと思う。
経験不足は更に致命的だ。苦しくて息ができなくなったなんて。
若林くんは呆れてしまっていないだろうか。
「何も、しないの?」
「ああ。」
それは僕が未熟だから?
「…しても、いいよ?」
若林くんは一瞬目を丸くして、それからいつものように笑った。
「無理すんな。」
大きな手が僕の頭を優しく撫でる。
「その気持ちだけで今は充分。」
「でも…」
「時間はたっぷりあるからさ。いいんだ、あせらなくて。そのかわり岬がキスしても震えなくなったら、続きするからな。」
おどけたように笑って、若林くんは目を細めて僕を見つめる。
愛情に溢れた優しい眼差しに、僕は即座に心を決めた。
「…5分待ってて。」
そう囁いて、大好きな若林くんに自分から口付けた。


END
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