図書館2(小説)

□幸せの温度
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「…き。…みさき。」
…若林くんの声がした。
優しく囁くような声。
僕は乱れた呼吸を整えながら、甦ってきた羞恥心と必死に戦う。
うっすらと目を開けると、驚くほど至近距離に、若林くんの顔。
穏やかな優しい微笑みと気遣うような眼差し。
「…岬。」
顔にかかっていた髪を直され、額にゆっくりとしたキスが落とされる。
「…大丈夫か?」
優しい声。
重ねられた身体の重みと汗ばんだ素肌の感触。
「………」
駄目だ、と思う。手の甲を自分の顔にくっつけた。若林くんの視線から顔を隠す。
「…岬?」
開いた掌にキスをされた。
「………」
「この手、どかしてくれないか?」
「………」
首を横に振った。
何もかもが初めてで、僕はどうしていいか解らない。
「…顔見せろよ、岬。」
「………」
何でこんなに優しい声で僕を呼ぶんだろう。
「…口きいてくれって。」
「………」
小さな吐息が聞こえた。
「…俺が嫌いになったか?」
「………」
ただ、首を左右に振り続ける。
「…岬、」
手首を掴まれた。
「…キスさせてくれ。」
静かに両手を開かれた。抵抗はしなかった。どうせ力では敵わない。
「………」
どうしようもないから、若林くんを見上げた。僕を見ないでほしいと思う。
「………岬」
気遣うような瞳が、僕を見下ろしていた。
僕は微笑もうと努力する。
「…大丈夫だから。」
かすれた声で、小さく応える。
そんな不安な顔をしないでほしい。
「……岬」
そんな心配そうな声で名前を呼ばないでほしい。
ますます僕は。
「…岬、」
視界が歪む。
「…」
涙が止まらなくなってしまうから。


もうずっと前から、好意を寄せられている事に気付いていた。若林くんは僕に対してかなりオープンで、どんな思いも隠そうとはしない。いつしかそれが嫌ではないことに気が付いた。
随分悩んで、絶対に後悔はしないと覚悟を決めて身を任せた。
その思いに嘘はない。
「…怖かったか?」
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