図書館2(小説)

□夏の終わり 夢の始まり
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「いい天気だねー。」
「そうだね。」
頭上は一面の青い空。積乱雲の白が目に眩しい。典型的な夏の空だ。
僕と翼くんの手はしっかりと繋がれている。お互いに離す気はない。
辺りには誰もいなくて、世界中で二人だけになった気分。
僕達はすることもなく、ただのんびりと空を見上げている。
「岬くん。」
「なに?」
「後悔してる?俺を追いかけてきたこと。」
「してないよ。」
「でも」
「先刻も言ったよ。ずっと傍にいるって。」
翼くんは嬉しそうに笑う。
「このまま岬くんとどこかに行けたらいいのにね。」
「じゃあ、二人でロベルトを探しに行く?」
「岬くんと一緒に?それ、すごくいいね。」
翼くんが、くすくすと笑った。
「ブラジルまで辿り着くのが、最大の難関だね。何日かかるかなぁ。」
「船で行っても、もっとかかるよ。」
「食物はどうしよう。手掴みで魚とれると思う?」
「まず、水がないとダメかも。」
「雨が降ればいいんじゃない?」
「降らなかったら、二人で雨乞いしようか。」
どちらからともなく、笑う。
どうにも緊迫感がない。
「ごめん。」
不意に真面目な顔で、翼くんが僕を見つめる。
「もし、岬くんに何かあったら、全部俺のせいだ。岬くんにだけは、何があっても助かってほしい。」
波の音だけが響く。
青い空の下にある、青い海。僕達の間にある浮き輪。それが世界の全て。
「嫌だよ。」
僕は笑った。
「僕だけなんて嫌だ。一緒に」
一面の海、陸地は遥か遠い。波に運ばれ、流されている僕達。気付いた時は戻れなくなっていた。
「一緒に助かろう。」
たとえ、正反対の結果でも、君と一緒なら、それほど怖くはない。



全国大会が終わって、南葛SCのみんなで海に来ていた。
僕にとっては、みんなとの最後の思い出作り。
みんな海に着くなり、大喜びで水の中に突進して行った。でも、翼くんはまだあまり元気がない。
なんとなく翼くんと僕と若林くんの三人で海を見ていたけれど、突然、翼くんが走り出して海に飛び込んで行った。慌てて僕は後を追う。若林くんを振り返ると、視線だけが返ってきたので、ひたすら翼くんを追った。
沖へ、沖へ、どこまでも泳いでいく淋しそうな背中。
翼くんは一人で泣きたいのかもしれないと思う。
でも、あまり遠くに行くのは危険だし、話を聞いて傍にいる事は僕にだってできる。
「翼くん。どこまで行くの?危ないよ。」
「岬くん。ついてこないで。俺、このままブラジルに行く。」
僕は驚いた。まさか、泳いで?
冗談だと解っているのに、その傷付いたままの瞳があまりにも真剣だから、僕は何も言えなくなった。
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