図書館2(小説)

□ワインのある夜
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ワインとグラスの準備をしながら、ふと気付いた。
俺も結構飲むほうだが、俺につきあって飲む岬の酔った姿は、そういえば見たことがなかった。
外見に似合わずかなり強い。
ソムリエナイフを開く。
酔った岬って、どうなるんだろう?



「…っ…ん」
少しだけ冷えた液体が喉を滑り降りていく。
こくこくと飲み込んだ後も若林くんの唇は僕から離れない。
舌が滑り込んでくるのと同時に始まる、熱くて深いキス。
口移しされる度に、その後の口付けが濃厚になっていく気がする。
若林くんのキスが上手いのか、僕がキスに弱いのか、どちらだか解らないけれど、もう僕の体は力が入らない。
「…ん…」
もう酔ってるのかもしれない。

『今夜は俺が飲ませてやる。』

そう言って、若林くんがいたずらっぽく笑いながら僕に宣言したのは、どのくらい前だろう。
若林くんの腕の中で、何度も何度も口移しで飲まされた。
いつも飲んでるはずの赤ワインが、驚くほど甘い。
呼吸が苦しくなるほどキスをされて、呼吸が戻る前に次のワインがやってくる。
うっすら目を開けると、若林くんが僕を見つめながら、グラスを傾けてワインを口に含んでいた。
笑みを含んだ、どこか鋭い眼差し。
「…わかばやしく」
熱い熱いキス。僕の肩に回された腕。頬を撫でる指。何も、考えられなくなる。
若林くんの胸にもたれかかったまま、肩で息をした。
「岬、…酔った?」
頬が熱い。
それから、体の奥が。
「まだ平気だよな?」
確かに量はいつもより飲んでないけど。
「…でも、ペースが…早い」
「早くならないように、抑えてるだろ?…こうやって。」
優しくて甘い声が耳を擽る。この声、卑怯だよ。
何度も軽く唇をついばまれて、体の熱が増した。暫くキスだけをされて、うっとりとしている間に、また、口移しのワイン。
アルコールの回りが早い。頭がぼぅっとする。体がふわふわしてきた。駄目。もう、本格的に僕は酔い始めてるに違いない。
若林くんがグラスを手に取る。
「…もぅ、いらない」
若林くんの手を押しやった。
「まだ酔ってないだろ?」
「…酔ってる」
「岬、変わってないぜ?酔ってるのは、ワインにじゃなくて、俺のキスだろ?」
どこまで自信家なんだろう。
二の句が継げないでいたら、またワインがやってきた。
無意識に口を開いて飲み込んで、すぐに熱に変化する液体に我に返る。
これ、もう、いらない。
何も考えずに唇を離して、首を振る。
「…岬、ああ、零してる。」
若林くんの舌が、僕の顎の下から唇までを舐め上げていく。
呼吸が乱れた。
「…わかばやしくんっ」
「ん?もう、飲みたくない?」
こくりと頷く。
頭を振ったせいかクラリとした。若林くんにしがみつく。
「外見はあんまり変わらないんだな。」
僕の頬を両手で包まれ、上向かされる。
こんなに顔が熱いのに。
「岬、俺のこと好き?」
「…好き」
こんなに体が熱いのに。
「俺が、欲しい?」
「…欲しい」
若林くんは一瞬驚いた顔をして、何故だかとても優しく笑った。
「酔ってるんだな。本当に。」
優しい瞳が近付いてくる。
「…初めて、聞いた。」
触れ合った唇は、もっと、優しかった。



END
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