図書館2(小説)

□可愛いデート
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日本に来た時に、珍しく岬の方から、欲しいものがあるから一緒に買い物に行こうと誘われる。
初めてじゃないだろうか。岬からの誘いなんて。
嬉しくて、顔がにやけてしまう。
岬が欲しい物って何だろう。
まぁあいつが望むなら、例え車だろうが、マンションだろうが、何だって俺が買ってやるけどな。



「ね、見て。こっちの方が、若林くんっぽいかなぁ。」
見上げる表情は笑顔だが、商品を見つめる横顔は真剣だ。可愛い。
一応お忍びのデートなので、岬は帽子と眼鏡、俺はサングラスをかけている。
ただ俺のサングラスは、素顔を隠す為ではなく、主に下心を隠すためだ。
うっかり岬に見惚れていても、周囲にバレることはない。
岬の手元には茶色いぬいぐるみ。
「それ熊か?」
「ううん。中身は違うらしいよ。」
「…中身?」
よく見れば背中に何故かファスナーが付いている。
なるほどと思いつつ、とりあえず背中のファスナーを下ろしてみた。



岬に連れてこられたのは、可愛いキャラクター雑貨を扱うファンシーショップだ。
一瞬入るのを躊躇った。
「一度入ってみたかったんだ。」
笑顔で岬が言うので、苦笑して二人でドアをくぐる。
所狭しと並べられたキャラクター物の商品。客層は女と子供。今日は平日だったよな。
「学校行かなくていいのか、こいつらは。」
「さあ?」
岬はあまり気にした風もなく、店内を物色していく。どこに行ってもすぐに場に馴染んでしまうのは、岬の特技だ。
俺も束の間のデートを楽しむ。
「へぇー、いろいろあるんだな。これ何だ、ウサギか?」
「それは犬。」
「これは?」
「焦げたパン。」
「パンかよ。…詳しいな、お前。」
「ファンからのプレゼントでよくもらうから。ここの商品。」
岬は笑う。
そういえば、やけに可愛いタオルを何枚も持ってたな。
「…ところで、あの遠巻きの女の子達、全部岬のファンじゃないか?」
声を落として囁いた。
男二人が目立ってるだけかと思ったが、明らかにそいつらの目が岬を追っている。
岬はさり気ない仕草で周りを一瞥する。
「…違うんじゃない?こら、あんまり顔近付けたら駄目だってば。」
「かなり妬けるんだが。なあ、俺のものだって実力行使していいか?」
「…若林くん、ここは日本だからね、わかってる?…キスとかしたら怒るよ?」
岬は可愛い笑顔のまま、俺を脅迫する。会話の内容は聞こえないように声を潜めて。
「……駄目と言われると、余計したくなるのは何故だろうな…」
俺の独り言に岬はくすくす笑った。
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