図書館2(小説)

□ターニングポイント
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「好きだ。」
小学生の頃から、若林くんは僕にそう言ってきた。
何年たっても変わる事無く、大会や合宿などで会うたびに必ず。とても真剣な眼差しで。
ただ、いつも伝えるだけで満足するのか、僕からの返事を求められたことはなかった。



「…僕も若林くんが好きだよ。たぶん。」
若林くんの告白に初めてそう答えた時、若林くんは驚いて狼狽えて、僕から視線を逸らした。
…ああ。
苦笑してしまった。
何だ。
喜んではくれないのか。
だったら、答えなければよかった。若林くんは別に僕を望んでいるわけじゃなかったんだ。
ずっとずっと、もう長い間、若林くんから告白され続けていたから、きっと本気なのだと信じてすらいたのに。
「冗談だよ。」
笑いながら、軽い口調で僕は言う。
「だから、若林くんももう僕に冗談言うのやめてくれる?」
好きだ、なんて。
信じた自分が馬鹿みたいだ。
「…岬」
若林くんが硬い表情のまま、僕に視線を戻す。
「勝手に冗談にするな。少なくとも俺は本気だ。」
じゃあ、その困り切った顔は何なの?
笑顔でいるしかない僕に向かって、若林くんは重い口を開く。
「…何で今日なんだよ。」
「若林くん」
「何年もお前に求愛し続けて、今まで何も返事をくれなかったくせに、何で今日答えるんだ。」
視線が絡み合う。
「…翼の結婚式の日に。」
僕は微笑んでみせた。
「………」
「何を、気にしてるの?」
何食わぬ顔で僕は聞いた。
「俺は本気だ。今まで何年も待ってきたし、これからだって待てる。だが、身代わりにされて満足するほど、俺は落ちぶれちゃいない。」
若林くんは厳しい眼差しで僕を責める。
「…違うよ。」
否定の声は、我ながら小さかった。
「若林くんと翼くんは違う。」
本意を探ろうとする若林くんの真剣な瞳に耐えかねて、今度は僕が視線を逸らした。
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