図書館4(小説)

□言葉にできない
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「…え?…うーん…」
俺の可愛い恋人は、難しい顔をしてそう言ったきり黙りこんでしまった。
いつでも穏やかな笑顔の岬が、こんなにも必死に何かを考えてる姿は、かなりの希少価値だ。
普段の俺だったら喜んでその表情を堪能するのだが、現在の俺はそれどころではなかったりする。
「…み、岬?」
「…うーん…、………どこなんだろう……」
俺の家のソファの上。
いつものように俺の隣に座っている岬は、先ほどからうつ向いたり、小首を傾げたり、はたまた上を向いてみたりと、真剣そのものの表情で思いあぐねている。
大人しく岬を見守っていた俺だったが、こんなに必死になって考えなくては答えが出ないのかと思うと、背筋を嫌な汗が伝う。

“…岬、俺のどこが好きなんだ?”

…まさか自分が発した些細な一言で、こんな事態になろうとは。
ついさっきまでの甘かった雰囲気はもう影も形もない。
予想だにしていなかった。
答えがでないという事は、つまり。
「………」
自分の鼓動がやけに早い。
恋人。
恋人だよな、俺達。
ちゃんと告白した。電話もメールも欠かさない。デートもしてる。キスもした。
岬は。
…まだ考えこんでいる。
「…岬。」
自分の中の何かが崩壊しそうだ。
これ以上の沈黙に耐えかねて、岬の頭に手を置いて、くしゃりと髪をもてあそぶ。
「いや、いい。」
「え?」
「なんつーか、…まあ、それは置いといてだな。……いや、そのなんだ、…岬は、俺の事は好き…なんだよな?」
何をわざわざ確認してるんだと自分自身にツッコミながらも、聞かずにはいられない。
これでまた悩まれたら、流石の俺でも凹む。
「あ…うん。」
岬は俺の顔を見つめて、ほんのりと頬を赤らめ、小さく頷いた。
僅か1秒で返ってきた返答に心底ホッとして、そんな自分を誤魔化すように岬の髪をわざと乱暴にかきまわす。
「ならいい。」
「もうっ」
乱される髪をかばって、慌てて岬が俺から離れる。
「…じゃあさ、若林くんは、…僕のどこが好きか、すぐに言える?」
そんなの簡単だ。
「全部。」
岬は俺を見上げてパチクリと瞬きする。
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