図書館4(小説)

□寒い冬が暖かい訳
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「やっぱり寒いね、ハンブルクは。パリも寒いけど、こっちはそれ以上かも。」
「まあ北にあるしな。それに海が近いから、風も結構冷たいんだ。」

ハンブルク空港に夕方遅くに到着した僕を、若林くんは満面の笑顔で出迎えてくれた。
今日は若林くんの誕生日。
タクシーで市街地へ移動し、楽しみにしてたクリスマスマーケットで賑わう市内を二人でそぞろ歩く。
街灯やイルミネーションが灯り、オレンジ色の光が様々な店内を暖かそうに照らしていた。
素朴で素敵なオーナメントの数々、林檎飴、本物のモミの木。
空気は冷たく澄んでいて、時折吹く木枯らしは身を切るようだったけど、未成年な僕達は、周囲の人達のようにアルコールで温まることはまだできない。
「岬、マフラーは?」
「…持ってない。」
「なら買ってやるよ。」
さらりと言って、若林くんが僕の手を引っ張る。
その嬉しそうな笑顔を見て、逆に僕の表情はこわばった。
若林くんは何かにつけて僕に物を贈ろうとするから、全く油断ができない。
それにマフラーなんて、若林くんに買うのを任せたら、きっと凄く高価な品物になってしまう。
「い、いいよっ。これじゃあどっちが誕生日かわからないよ。だいたい若林くんのプレゼントって桁が違うんだもん。うっかり貰えない。」
「遠慮するな。俺の金だ。高くないだろ、マフラーだぞ?…車や別荘じゃない。」
それはそうなんだけどっ。
比較の対象が既に別世界なんだよ。
それに、遠慮だけじゃなくて。
「若林くん、本当にいらないから。…あ、あのね、僕、…マフラーってちょっと苦手だから。」
「…なんで?」
やっと若林くんが足を止めてくれた。不思議そうな顔で僕を見る。
「…首に巻いてると、チクチクするし、息苦しい感じがするからダメなんだ。」
マフラーは一応持ってたけど、そんな理由で滅多に使わなかった。
肌に当たった部分が痛痒くなって赤くなってしまうから。
だから素直に本当の事を白状したのに、若林くんはほんの僅か僕を見下ろして、そして何故か意味深にニヤリと笑う。
「ああ、…なるほど。」
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