図書館4(小説)

□来訪
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「若林くん!」
来訪はいつも突然。
クラブまでの道のりの途中。
驚いて振り返れば、朝日よりも輝く笑顔で手を振っているお前がいる。
「岬!」
慌てて駆け寄って、抱き寄せた。
そのまま再会の喜びのキスをしようとしたが、岬に激しく拒まれた。まあ予想通りだ。
その勢いで腕の中からも逃げられてしまったのが予想外。
…残念。
「ねえ若林くん、お昼、一緒に食べない?」
わざわざフランスからやって来て、誘い文句がそれか。
可愛い過ぎるぞ、岬。
「いいぞ。昼だけじゃなく、夜も朝もだ。これからずっと一緒に食べようぜ。」
俺の軽口に、岬は笑う。
「じゃあ、とりあえず二日間くらいね。」
「ああ、わかった。…で、岬の今日の予定は?」
「若林くんはクラブで練習?」
「ああ。」
「…そんな若林くんを見学できたりする?」
「任せろ。練習中の俺の格好良さを見たら、惚れ直すぞ。」
並んで歩き出しながら、さりげなく岬の肩を抱く。
「…駄目だよ。」
笑顔のまま、回した腕をはずされた。
全く怯まずに、今度は細い腰に手を回してみる。
「もう、駄目だってば。」
すぐに逃げられた。なかなか手強い。
「じゃあ、こっちな。」
はずしてきた手を握る。本気で嫌がってないのはわかってる。
岬の横顔がほんのりと赤い。
「誰も見てない。おかしくない。」
そう強引に説き伏せて、握った手を離さずに歩き出した。
上機嫌で。



「岬!」
呼びかけられて、心臓が止まるかと思った。
こんなところにいるはずがないのに、振り返れば遠くに、若林くんが笑顔で立っている。
何で、ここは日本の高校のグランドだよ?
とりあえずサングラスが目立つ。同い年には到底見えない。貫禄がありすぎて、どこかのスカウトに見えなくもない。
「若林くん!」
グランドの隅に慌てて駆け寄った。サッカー部のみんなは知ってるんだろうか?
「若林くん、なんで、こんなとこにいるの?」
「岬を見に来た。いつぞやのお返しだ。」
ニヤリと呑気に笑っている。
放課後のグランド。まだ準備をする一年がまばらにいるだけだ。
「夕飯、一緒に食べようぜ。」
「………」
驚いたのと嬉しいのと困ったのと幸せな気持ちが一気に押し寄せてきて、僕は軽くパニックになりながら、ただ小さく頷く。
「うん。」
「ここで待ってる。問題ないか?」
「…うん。じゃ、じゃあ、後でね。」
赤くなる顔を見られないように足早に去ろうとしたら、背中に若林くんの声がかかる。
「…岬、忘れ物だ。」
「え?」
何をだろうと近寄った僕の頬に、屈みこんだ若林くんの唇が触れた。



END
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