図書館4(小説)

□天使の飼い方
1ページ/2ページ

「…早いな。」
若林くんの腕の中。
からかうような響きを含んだ、低く優しい声がした。
その声音に僕は慌てて顔を上げる。
「…あ…僕……?」
もしかして、また。
「ああ。お前、前回より早かったぞ。」
笑いながら顔を覗き込まれて、僕は恥ずかしさに視線を反らした。
顔も体も火照って熱い。
若林くんは更に笑いながら、大きな優しい手で僕の頭を撫でてくれる。
恥ずかしい。
きっと子供っぽいって思われてる。
「…ごめん。…久し振りだったし…、若林くん…凄く…気持ちいいんだもん…」。
若林くんは満足そうな笑みを見せる。
「だろうな。…だが、俺はまだ全然足りないぜ、岬。」
頭を撫でていた手が僕の頬を滑っていく。
優しい口調とは裏腹に、恐いほど真剣な眼差し。
ひたむきに熱く僕を求めてるのがわかるから、凄く恥ずかしくて、凄く嬉しい。
僕だって、君にもっと触れられたい。
「………うん。」
それから、いいよ、と囁く代わりにゆっくりと瞼を閉じた。
「…岬…」
優しい指と唇が、僕の肌の上を辿っていく。
何度も。何度も。
その度に吐息が漏れた。
体中を伝う若林くんの暖かい手。
優しく雪が降り積もるような、くすぐったくて甘い接吻。
「…ん…」
力が抜けていく。何も考えられなくなる。
どうしてこんなに気持ちがいいんだろう。
まるで天国にいるみたいだ。
「…若林…くん…」
幸せで、気持ちがよくて、蕩けてしまいそうになる。
僕はこんなにも感じてるよ、君を。
だから、どうか君も僕を感じて。
恥ずかしいからなかなか口にはできないけれど。
大好きだよ。
ちゃんと君に伝わってる?
「…岬…好きだ…」
…うん…。
「………」
「……岬……?」
「………」
「……………。……ああ、…またか。」

俺は呆れて苦笑する。
腕の中で、愛しい恋人が安らかな寝息をたてていた。
最近は、いつもこうだ。
壊れ物を扱うように抱き締めて、優しく愛撫を始めると、岬はすぐに眠ってしまう。
警戒心の欠片もなく、幸せそうに眠る岬はこの上もなく可愛いらしいが、既に昂ったこの体はどうすればいい。
かといって、寝ている岬に手を出すのも、無理に起こすのも忍びない。
結果、俺は何も出来ないまま、ただ岬の寝顔を眺めている。
「…本当に、手のかかる恋人だよ、お前は。」
全く一筋縄ではいかない。
俺がこんなに振り回されて悶々としているのに、この平和な寝顔はなんだ。
どうしていつもこんなに可愛いんだ。
久し振りの逢瀬だぞ。
愛しい恋人をこの腕に抱いたまま、途中で投げ出されて我慢なんか出来るか。
いっそ抱いてやろうか、このまま。
岬の都合なんて全く気にせず、己の欲望の赴くまま。
強引に、乱暴に。
そうしたら、岬は。
「………」
眼下にある岬の穏やかな寝顔をじっと見詰める。
「……岬、…目が覚めたら、覚えてろよ。」
今度こそ眠らせないように、優しく。
驚いても、嫌がっても。
どんなに恥ずかしがっても。
必ずお前を、抱いてやるからな。
「…岬…」
「……ん」
募る愛しさにかられて、柔らかな頬にそっと唇を落とした。



END
次ページはアトガキとオマケ
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ