図書館3(小説)

□紅の刻印
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「…うわ…」
バスルームにある、備え付けの大きな鏡。
シャワーを浴びようとしていた僕は、何気なくそこに映った自分の裸を見てしまい、そのまま動けなくなった。
まるで何かの病気になったみたいに、全身に無数の紅い跡。
心当たりはある。けど。
恐る恐る鏡に近寄って、思わず息を飲んだ。
……これ、全部キスマーク?
初めて見た。
…こんなにたくさん?


昨夜、若林くんの部屋で、初めて僕達は結ばれた。
僕は初めてだったから、ただもう夢中で、何をされてたかもよく解らなくて。
「………」
全身余すとこなく散らばったキスマークから、目が離せなくなる。
この一つ一つの跡は、若林くんの唇が触れた証拠。
そう考えて、いきなり全身が熱くなった。

『…好きだ、好きだよ。岬…』

若林くんの濡れた唇の感触が、甘く僕を呼ぶ低い声が甦る。
舌で、指で触れられた所が燃えるように熱くて、このまま若林くんの熱で、身も心も溶けてしまうんじゃないかと思った。
…若林くん。
はっきりと残された痕跡の激しさは、おそらく僕への想いの強さ。
どうしよう。こんなにも。
君を想うだけで、身体が熱くなるほど。
…君にこうして愛される事が、こんなにも幸せだと感じるなんて、経験しなければ解らなかった。


「…岬、そこにいるのか?」
控え目なノックの音で我に返る。
「開けるぞ?」
若林くんの声に慌てた。
「だ、駄目っ」
目が覚めた時に、若林くんはいなかった。
時計を見ると、若林くんがいつも朝の自主トレをしてる時間。
今朝もきっと普段通り走ってるんだろうと思って、少しほっとした。
あんなことをした後で、どんな顔で接したらいいのか解らないから。
若林くんが帰ってくる前に、軽くシャワーを浴びて、朝食の準備をしながら落ち着こうと思っていたのに。
まだシャワーも浴びてないし、何より心の準備が。
「駄目?何でだ?」
「だって今、僕、裸で」
「シャワー浴びた?」
「ううん、まだこれから。」
「なら、丁度良かった。一緒に入ろうぜ。今朝はさすがに飛ばし過ぎた。早く帰って岬に会いたくてさ。…開けてくれ。」
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