図書館3(小説)

□コタツ
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「若林くん、起きて。風邪ひくよ。」
肩に手を置いて揺さぶってみるが、当の本人は気持ちよさそうに、コタツのテーブルに突っ伏して眠ったまま動かない。
綿入れ半纏が異様に似合っていた。
僕の部屋は暖房器具がコタツのみなので、寒いんじゃないかと思って用意したんだけど。
そして若林くんはいたく気に入って着てくれたんだけれど、半纏の下は実はTシャツ1枚だったりする。
…本当は暑いのかもしれない。
「若林くんってば」
だいたい。
いつも突然日本にやって来るのだ。
驚かせたいからといって何の連絡も前触れも無しに、突然合鍵で入ってくるのは、本気で僕が驚くからやめてほしい。
『…岬も突然来ただろ?』
以前、笑顔でそう答えられてしまって返事に詰まった。
それ以来ちょっぴり気にして、僕からも連絡を入れるようにしているというのに。
今日も突然やって来て、『お、コタツか。いいな。』とご満悦な様子で中に入ったっきり。
『鍋が食べたい。』という突然の殿の仰せに従い、夕飯は鍋パーティーになり、殿はいつしか奉行に変わり、若林くんの食欲につられてたくさん食べ過ぎてしまった。
お風呂から出てきたら、若林くんはコタツに突っ伏して眠っていた。
「起きて。若林くん。」
「…ん…」
微かに呻いただけで、若林くんは全く起きる気配はない。
コタツから引きずり出してベッドに乗せるのは、なかなかの重労働になりそうなので溜息をつく。
「…もう。」
一体何しに来たんだか。
コタツと鍋が目当てで、わざわざドイツからここに来たの?
それだけ?
…僕の事は?
若林くんの隣に座って、同じようにテーブルに顔をくっ付けて寝顔を見つめた。
実は欧州にいる時に、真面目な顔で好きだと言われた事がある。
でも、告白は数年前のそのたった一度だけで、聞き逃したふりをした僕は何も返答はしていない。
そして、若林くんはその前もその後も全く態度が変わる事はなく、僕達は何年も仲の良い友人のままだ。
あの告白は何だったんだろう。ただの冗談だったんだろうか。
いまだによく解らない。
「…ねえ、何しに来たの?」
物言わぬ寝顔に、そっと聞いてみる。
「…岬に会いに来たんだぜ。もちろん。」
急に目を開けた若林くんが僕を見てニヤリと笑う。
驚いた僕が慌てて身体を起こすと、何事もなかったかのように大きな伸びと欠伸をした。
「ああ、よく寝た。やっぱりコタツっていいな。The日本って感じだ。」
「………」
「…なんだ?」
「何でもないよ。」
若林くんは笑う。
「…不満か?」
「何が?」
若林くんは答えずに、僕の顔をニヤニヤと見つめているだけだ。
僕が何を不満に思ってるって?
内面を見透かされてるみたいで、なんだか凄く居心地が悪い。
「なんだよ、もう。変な笑い方して。」
「いや、明日は岬、休みだったよな?」
「…うん。」
「じゃあ、俺とデートしないか?」



END
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