図書館3(小説)

□モーニングキス
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「…若林くん?」
僕はそっと寝顔を覗き込んだ。
明るい陽射しの中、ぐっすりと眠りについたままの若林くんは、まだ起きる気配がない。
ベッドサイドの時計を見る。
久し振りのオフだし、もう少し寝かせてあげようかな。
朝ご飯はテーブルの上で僕達を待っているけど、また温め直せばいいだけだ。
「………」
静かにベッドに腰かけて、シーツにくるまれた裸の若林くんを見下ろす。
なんだかあんまりないシチュエーションだ。
若林くんは朝に物凄く強い。
さすが若年寄だよねとからかったことがあるくらい、いつもなら日の出と同時に目覚めるのに。
今日は珍しくとても気持ち良さそうに眠っている。
見ていると幸せで、微笑ましくも感じるのに、でも何故だかちょっぴり寂しい。



『………っ…んんっ…んーっ!…、』
『あ、起きた。おはよ。岬。』
『ななな何す』
『何って単なる目覚めのキスだろ?』
『……嘘だ、今ディープキスで』
『岬が全然起きないのがいけないんだぞ。普通のキスじゃ目が覚めないんだな。軽く20回はしたのに。』



いつかの朝の出来事を思い出してしまい、クスリと笑う。
あの時の若林くんもこんな気持ちだったのかな。
若林くんは眠ったまま動かない。穏やかで優しい寝顔。
ねえ、もう朝だよ。



『岬ってさ、俺とキスするの嫌か?』
『なんで?…いつもキスしてるよ?』
『そうなんだが、俺からじゃなくて、岬からってまだ一度もないだろ。岬からはしてくれないのか?』
『………』
『やっぱり嫌か?』
『…ううん。…嫌なんじゃなくて。…恥ずかしい…だけ…なんだけど。』
『…そうか。なら、いい。気長に待つ。』



強要されたことはない。
けど。でも、きっと。
今なら、できるかな。キス。
若林くん寝てるし。
たぶん起きない。
屈み込む。深呼吸。
急にドキドキしてきた。
ただ唇を合わせるだけなのに。
相手は僕の恋人で、喜ぶことはあっても、決して嫌がることはないって解っているのに。
好き。
大好き。だから。
顔を近付ける。
静かに囁いた。
「…若林くん…起きて?」
「………」
どうか。
起きて。早く。
起きないで。まだ。
若林くんが寝息のままなのを確かめて。それから。
目覚めないように、気付かれないように。
静かに、そっと。
震えながら目覚めのキスを、君に。
大好きな君に贈るから。



END
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