図書館3(小説)

□ハプニングナイト
1ページ/2ページ

突然だった。
久々に岬がハンブルクに遊びに来て、少々浮かれ気味に二人で夕飯を食べ始めたところだったのに、いきなり。
目の前が真っ暗になった。
「あ」
ほぼ同時に声を出す。
「停電。」
家のブレーカーが落ちたとは考えられない。
すぐに席を立ってカーテンを開けた。周りの建物からの灯りもない。
落雷か事故か。
「やっぱりここら辺一帯全滅みたいだな。真っ暗だ。せっかくこれから飯だったのに。」
「びっくりした。こんな事もあるんだね。」
暗がりの向こうから、あまりびっくりしてないような岬の笑い声。
それでも暫くすると、うっすらと目が暗さに慣れてくる。
だがこの暗がりで飯は食えない。
「懐中電灯持ってくる。待ってろ。」



「なんだかいきなりロマンチックになっちゃったね。」
岬が暖かな光の中で楽しそうに笑った。
クリスマスの残りの大小様々なキャンドルに照らされて、テーブルがかなり華やいでいる。
ムードたっぷりだ。
飯はこれでいいとしても、寝る前にもう一つ問題がある。
「シャワーどうする?…俺が懐中電灯で照らしてやろうか?」
「謹んで遠慮します。…あ、そうだ。あそこにいるジャックを借りてもいい?」
岬が指を指した先にはハロウィン用のカボチャのランタン。
「…いいけど。」
残念。岬の裸をじっくりと観賞できるチャンスだったのに。
「何?…別に、若林くんが物凄く下心ありありな顔してたから断ったなんて言ってないよ?」
「…言ってるだろ、今。」
岬はクスリと笑う。
「裸なんてシャワー室とか更衣室でいつも見てるでしょ?」
「馬鹿言え。いつもは見てない。…たまにだ。」
「……ふーん、見てるんだ。…エッチ。」
「………」
そりゃ見るさ。当たり前だろ。
「………エッチと言われるほどしっかり見た事はない。」
好きな相手なら尚更、全部知りたいと思う。
その服の下がどうなっているのか。
どんな風に乱れるのか。
「若林くん。」
「何だ?」
「今度から覗いたら罰金ね。」
「…罰金?」
俺は別に払っても構わないんだが。…誰に?
金払えば見ていいって言ってるって事に、気付いてないのか。
「若林くん、解った?…見ちゃダメだからね。」
「…ああ。解ったって。」
岬が嫌がるなら。
何もしない。残念ながら。


岬に先にシャワーを勧めたはいいが、待っている間ずっと、俺は何やら落ちつかなかった。
テレビも音楽もネットも本もなし。
シャワーの水音がやけにハッキリと耳に響いて、否が応でも裸の岬の姿を想像してしまう。
シャワー音が止むと、今は髪を洗っているのか、それとも身体を洗っているのだろうかと、ますます妄想は止まらない。
一体何の試練だ、これは。
見るなと言われると、見たい気持ちが膨らむ。
早く岬の恋人に昇格したい。
友達から始めようと言った。いつまでも待つとも。
焦る気はないが。
でも。今夜は。凄く。
「若林くん、お待たせ。」
フワリと石鹸の良い匂いがした。
岬が笑顔で戻ってくる。
岬と入れ違いで浴室に入った。
ジャックオランタンと一緒に。
その怖いというより、とぼけたような顔を睨み付ける。
「………お前、見ただろ?」
岬の裸を。
ジャックはもちろん答えない。
「罰金だからな。」



END
次ページはアトガキとオマケ
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ