図書館3(小説)

□眼鏡とキスの関係
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俺とのデートの時、岬はいつも眼鏡をかけている。屋外屋内関係なく。
不思議に思って理由を聞いてみると、岬は少しだけ言いよどんだ。
「…あのね、映画とかテレビを見てると、…眼鏡を外してから、してるでしょう?」
「何を?」
「………。…キス。」
「…………」
だからつまり、キスするには邪魔な眼鏡をあえてかけてるって訳だ。
ふーん。そういうことか。
「………ああ、…それ、キス避けなのか。…俺とキスするの、嫌なのか?」
「あっ、ううん。違うの。別に、若林くんとキスしたくないって訳じゃなくて。そうじゃなくて。…なんていうか、心の準備というか。…ほら、眼鏡外されたら、キスされるんだなって気付ける…し。」
「………」
「…若林くん?」
「………」
「……あの、…怒った?」
俺はじっと岬を睨みつける。
「岬、俺達の関係は?」
「……えっと、恋人…。」
消え入りそうな声で岬が答える。
最近付き合い始めたばかりで、まだキスもしていない。
だが恋人だ。
「それ取れよ。」
「…え」
「今すぐ眼鏡取って、目潰れ。」
「!…え、今?」
「……嫌なのかよ?」
「………だっ…て」
「岬」
「待って。いやだ、待って、違うの。若林くんとキスしたくないんじゃないくて、でも、こんな状態じゃ嫌だ。もっとお互いにちゃんと、気持ちを………………」
「…ん?」
「…あの…何で、…笑ってるの?」
…バレたか。
「いや可愛いなーと思って。」
岬は瞬きして、恐る恐る聞いてくる。
「……怒ってない?」
笑ってしまった。
「全然。ちょっとからかっただけだ。悪かった。…岬が奥手なのは解ってるからさ。そういうところも全部含めて、俺は岬が好きだから。」
顔を近付けて笑いかけると、岬は動揺して耳まで赤くなった。
「岬。今、俺とキスするの嫌じゃないって言ったよな?」
「…うん。」
「本当に?」
「…」
岬の眼鏡に手をかける。
両手で持って、試しにそっと外してみた。
岬は赤く染まったまま、それでも無抵抗で大人しく目をつぶった。両手で頬を包み込む。
逆に、怖い。
本当にいつまでだって待つつもりでいたから。少しの無理もしないでほしい。
俺は唇ではなく、そっと鼻と鼻を触れ合わせた。
キスを覚悟していた岬は、驚いて目を開ける。
びっくりした顔も可愛い。
凄く欲しいけどな。欲しいから。尚更大切にしたい。
「岬、好きだ。」
もう一度鼻で触れる。
岬が微かに笑う。
「うん。僕も…好き。」
震えて緊張しているが、柔らかい眼差しも笑顔も本物だった。
だから、もう。俺は。
我慢するのを、そこでやめた。



END
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