図書館1(小説)

□とはずがたり
1ページ/6ページ

「…岬、ここにいたのか。」
目覚めたら、腕に抱いていたはずの岬がいなかった。



久しぶりに日本に帰ってきて、その足で攫うように岬を車で連れ去った。
向かった先は人里離れた小さな温泉宿。
温泉に浸かり、用意された夕飯をとって、部屋に戻って二人きりになった途端に理性を捨てた。
抱き締めて口付けて、ここじゃ嫌だという恋人を抱き上げて、奥の和室に運ぶ。
襖の向こうは畳の中央に白い布団が敷かれていて、風呂上がりの浴衣姿の岬をそっと降ろしたのと同時に激しく欲情して、激情のままに岬を求めた。甘い吐息に誘われて、帯を解いて、着物の前をはだけさせ、邪魔な布は取り去って、裸の身体を重ね、それから………。
ふと気が付けば、俺は一人きりで布団の中にいた。
岬の姿はどこにもない。俺は驚いて自分に掛けられた上掛けを見つめた。



夜風が心地良かった。
若林くんから電話があったのはつい二日前の事だ。
それが今はこうして日本に、僕の傍にいる。
こうやって顔をあわせるのは本当に久しぶりで、熱い腕の中で狂いそうになりながら、求められるままにどこまでも堕ちていく最中に、僕の恋人は何の前触れもなく動きを止めた。
不意に重さを増す腕と、安らかな呼吸音。
暫くは何が起こったかよく解らなかった。乱れていた呼吸が自然におさまって、それでも周りの状況は変わらなくて、試しに小声で若林くんの名前を呼んでみる。
若林くんからの返事は静かな寝息だけ。
思わず笑ってしまう。
こんなことってあるのだろうか。さっきまであんなに激しく僕を求めていたくせに。
重たい腕をどかして、上掛けを掛けてあげる。いつもならささいな刺激で起きてしまうのに、今日はそんな気配もない。
…疲れてるのに、無理するからだよ。
寝顔に囁いて、若林くんの髪の毛をそっと撫でた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ