図書館1(小説)

□KISS
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「じゃ、行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
ドアの前で振り返って、玄関まで見送りに来た岬の唇に軽いキスをした。
柔かな唇は一度ついばむと止まらなくなる。岬のさらさらとした髪を撫でながら、口付けて、更に口付けて、キリがないから岬の身体をぎゅっと抱いて、すぐに帰るからと耳に囁いて、それから優しくキス。何度も。
「若林くん。」
「ん。」
「遅れちゃうよ。」
「岬が可愛いから、離れられないだ。」
キスの合間に会話する。
覚悟を決めて身体を離せば、見上げる岬の瞳が切なげで、とにかくきつく抱き締めて、もう一度唇を重ねた。
毎朝。
出かける前の儀式。
だんだんキスの回数が増えてる気がする。
最初は1回だけだった。



「岬ってキスが好きだよな。」
「…え?」
「だってほら。」
岬に顔を近付けて、唇を合わせる。
「?」
岬は不思議そうに俺を見た。
「キスが好きなのは、若林くんの方だよ。」
俺はただ笑って、もう一度唇を近付けた。
柔かい唇が、一瞬触れて離れる。
「?」
俺の含みのある笑顔に、岬は小首を傾げる。
三回目で岬は気付いた。
唇が離れた途端に、「意地悪」と可愛い声で呟く。
キスしているのは俺じゃなくて、岬だ。俺がぎりぎりまで顔を近付けると、岬が勝手にキスしてくれる。
「な?」
勝ち誇ったように笑うと、岬は上目使いで俺を睨む。
その表情があんまり可愛いから、仲直りの口付けをしようと顔を近付けた。
岬も唇を寄せてきて、触れ合う一歩手前で二人とも動きを止めた。
どうにかして相手にキスしてもらいたいから、自分からは動けない。
鼻同士が触れ合うくらい近い。甘い唇はほんのすぐそこ。
「しなくていいの?」
岬が甘えた声で誘う。
「されなくていいのか?」
お返しに低い声で囁いた。
キスしたくなるのを、意思の力を総動員して耐える。
笑いが込み上げてくる。
「降参。」
幸せな気分のまま、岬の唇を奪う。一度奪った後は、強奪し放題だった。



「若林くん。あのね」
さり気なく、岬はそう切り出した。
「父さんから連絡があって、来週、日本に帰るって。」
顔を上げて岬を見つめる。
「僕も一緒に帰ろうと思うんだ。」
真っすぐに見つめ返された岬の瞳。
「一度フランスに戻ってから、そのまま日本に行く。たぶん、ここには戻ってこれない。」
「……そうか。淋しくなるな。」
微かに笑って、岬の身体を抱き寄せた。
一緒に住み始めてから、いつかこの日が来ることはわかっていた。離れ離れになることはわかっていたから、いつだって全力で愛し合った。
この家にある岬のものは、そのままにしておくと告げると、岬はありがとうと笑った。
「いつ、フランスに戻る?」
「……明日。」
思わず笑った。岬らしい。
「岬、キスしてくれよ?」
優しいキスがやってきて、胸が痛んだ。岬も痛いのだろうかと考えると堪らなくて、何度もキスを返しながら、その身体をゆっくりと押し倒した。



「じゃ、行ってくる。」
「いってらっしゃい。」
ドアの前で振り返って、玄関まで見送りに来た岬の唇に軽いキスをした。
柔かな唇は一度ついばむと止まらなくなる。岬のさらさらとした髪を撫でながら、口付けて、更に口付けて、キリがないから岬の身体をぎゅっと抱いて、いつでも帰ってこいよと耳に囁いて、それから優しくキス。何度も。
「若林くん。」
「ん。」
「遅れちゃうよ。」
「岬が可愛いから、離れられないんだ。」
キスの合間に会話する。
今日、俺が帰っても、ここに岬はもういない。
覚悟を決めて身体を離せば、見上げる岬の瞳が切なげで、とにかくきつく抱き締めて、もう一度唇を重ねた。

毎朝の変わらない風景。
これが最後の儀式。


END
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