図書館1(小説)

□合宿の部屋割り
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合宿の時は、何故かいつも若林くんと同室になることが多くて、実は根回しされてるんじゃないかと秘かに僕は疑っていた。若林くんだったら、そのくらい平気でしそうだから。
でもそれは僕の考えすぎだったのかもしれない。
僕は今回、翼くんと同室になった。
「よろしくね。岬くん。」
「こちらこそ。」
お互いに笑顔で挨拶する。平和な夜になりそうだった。



…なんて思ってたのに。
夜のミーティングが終わって部屋に戻ると、若林くんがいた。
「なんでここにいるの?」
「俺もここで寝る。」
「……ここ、二人部屋なんだけど。」
「岬と一緒に寝る。」
「ここは僕と翼くんの部屋なの。」
「だから、岬と一緒のベッドに寝れば問題ない。」
誰がこんなわがままな三歳児を、全日本の正ゴールキーパーにしたんだろう。
「…嫌。」
「岬、冷たい。」
「冷たくない。さっさと自分の部屋に戻って。」
「戻れない。」
「え?…なんで?」
「日向と同室だったから、若島津に譲ってきた。」
「………」
「だから、一緒に寝ようぜ。岬。」
満面の笑顔。
悲しい事にこれが、我儘でお坊っちゃんな僕の恋人。だいたい一緒のベッドで寝たりなんかしたら、若林くんが朝まで大人しくしてくれるわけがない。今が合宿中だとか、隣で翼くんが寝てるとか、一切気にしないで好き勝手するに決まってる。
僕が大変な目に合うのは、火を見るよりも明らかだ。
僕は翼くんを振り返る。
翼くんは面白そうに僕達の会話を聞いていた。
「翼くん、お願いがあるんだけど。」
「何?」
いつもの明るい笑顔が返ってくる。
「若林くんが僕の方のベッドを使ってもいい?」
「いいよ。」
大喜びする若林くんに念を押す。
「これでいい?」
「いい、いい。」
ぶんぶんと大きく首を縦に振る。
ほんとに只の子供だ。
「じゃ、僕は翼くんと一緒に寝るから。」
「…え?」
固まる若林くんを僕は無視する。
「翼くん、それでもいいかな?」
「もちろん。」
今度は翼くんがニコニコと笑う。
「なんで翼なんだよ。俺と寝ないのか?」
「僕はゆっくり休みたいの。それが嫌なら、若島津がもといた部屋に僕が移るから。」
「…………」
若林くんは暫く無言で考えた末、がっくりと肩を落とす。結局同じ部屋にいることを選んだようだ。
「嬉しいな。岬くん、おいでー。岬くんは、こっち側ね。」
対照的に上機嫌になる翼くん。僕を若林くんから遠い方の端に誘う。
「あ、ずるいぞ、翼。岬の寝顔くらい見せろ。」
「若林くんはいつも見てるだろ。今夜くらい俺が独り占めしたいもん。若林くんには見せないよ。」
「岬、翼よりも後に寝て、早く起きろ。寝顔見せるな。」
…子供が二人。
「もう、勝手な事、言わないで。どうせ電気を消したら何も見えないよ。おやすみ」
問答無用で消灯して、翼くんのとなりに体を滑り込ませる。
「わーい、岬くんだ。」
嬉しそうな翼くんの声と同時にぎゅうっと抱き締められる。
フィールド上でも何度も抱き合ってるから、僕も普通に抱き締め返した。
「岬くん。」
不意に耳元で、僕にしか聞こえないような小声で囁かれる。
「俺も男だからね?あんまり無防備だと襲うよ?」
………え?
くすりと笑う声、強くなる腕の力。



今日も平和な合宿所の夜は、何事もないかのように更けていった。


END
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