図書館1(小説)

□恋愛のススメ
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「町中で無闇にボールを蹴るもんじゃないぜ。」
「…………」
「!」
目の前に立つその人物を見て、俺は言葉を失う。
…一目惚れ、だった。



〈相合傘〉

「岬、もっとこっちに寄れって。濡れるぞ。」
「うん。」
岬は素直に身体を近付けてくる。肩が触れ合って、何故だか心臓がドキドキした。
今、俺の傘の中には岬がいる。
岬を見つけたのは、偶然だった。スーパーの前で雨宿りしている、買物帰りの岬を拾った。これから俺が家まで送っていく。
今日は一日雨だったから、いつものサッカー練習が無い。他校の岬とは当然会えない。そう覚悟してたのに、まさかこんな風に会えるなんて。二人きりなんて初めてだ。
岬は自分の傘を、見知らぬ婆さんにあげてしまったらしい。
もともと貰ったビニール傘だから、と笑う。無事に家に帰れたかな、なんて人の心配ばかりして。
俺が通りかからなかったら、濡れながら帰ったのだろうか。そのせいで岬が風邪でも引いたら、例え相手が婆さんでも、そいつを恨む。
雨足が激しい。ちらりと岬を見つめ、俺は更に傘の角度を傾けた。
「若林くんが濡れちゃうよ。」
気付いた岬にあっさりと角度を戻された。
「俺はいいんだ。」
「よくないよ。」
岬を濡らしたくないのに。
俺は懲りずに、岬にばれないように傘を傾ける。
ずっと肩が触れていた。Tシャツごしの岬の肌。どうして身体が熱くなるのだろう。
いざとなると何を話していいかわからず、無言のまま歩いた。時折岬が道順を伝える。
傘の中の狭い空間に二人きり。岬の顔がやけに近い。
ずっとこのまま二人で歩いていたい。そう思った途端、岬は足を止めた。目の前には二階建のアパートが雨に濡れている。
「ここでいいよ。若林くん、ありがとう。すごく助かった。」
「…………」
岬の笑顔を恨めしい気分で眺めた。もう少し一緒にいたかった。
「風邪引くなよ。」
「うん。若林くんも引かないでね。」
何か他に、話題は。
「…俺、岬が好きなんだ。」
気が付いたら、馬鹿正直に俺は告白していた。
岬はにっこりと笑う。
「うん。僕も若林くんが好きだよ。また明日ね。本当にありがとう。」



…かなり本気で告白したのに。
流されたよな、完璧に。
あんなタイミングで言う俺が悪いのか?
それとも、好きって言ってくれたから、あれでいいのか?
いや、でも両想いの実感はまるでない。
誰かを好きになるなんて、初めてで。
俺はどうしていいか、本当に何もわからなかった。
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