図書館1(小説)

□トライアングル
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「好きなんだ。」
告白されたのは、これが初めてじゃなかった。
「…ありがとう。でも、ごめん、僕は」
誰も好きにならないって決めてるんだ。
だって、僕はどうせ、すぐに此処からいなくなってしまうから。
恋愛なんて、しようとは思わない。



誰かを好きになっても、別れが辛くなるだけだと、物心がついた時から嫌というほど思い知っている。
転校する度に、父親の目の届かないところで泣くしかなかった。
放浪生活は、抗いようがない僕の運命だったから、受け入れる代わりに、僕は心の一部を殺した。
僕は本気で誰かに接することはない。いずれ離れてしまうなら、最初から心を預けたりしない。
それでいいと思っていた。
南葛市に引っ越してくるまでは。
僕の運命の人に出会うまでは。



「行くよ、岬くん。」
言葉も時間も必要なかった。
初めての試合でコンビを組んで、その瞬間に僕は総てを悟った。
僕が生まれてきて、サッカーをしてきたのは、こうして翼くんのサポートをするためだという事。
翼くんはサッカーをする者にとって、希望の光だという事。
翼くんは天才だった。そしてもう一人天才と呼ばれた人がいた。
「岬。」
若林くんは天才ゴールキーパーで、誰よりも翼くんを評価していた。僕達三人は急速に親しくなった。
あの夢のような夏。
僕らは夢中になってボールを追いかけた。楽しくて苦しくて喜びに満ちた日々。気が付けば僕達は日本一になっていた。
どうしてだろう。いつのまにか三人で一緒にいることが、永遠に続くかのように僕は思っていた。

…そんな事、あるわけないのに。



「ミサキ、今月号もう読んだ?」
友人が新しいサッカー雑誌を手にして現われる。
「ううん、まだ。」
「じゃ、一緒に見ようぜ。」
有り難く好意に甘えて、二人で雑誌をめくった。仏語の文章も会話も、今はもう大分慣れた。記事を読みながら、たわいもない話をする。
パラパラとページをめくっていて、ある小さな記事に僕の目は釘付けになった。
「…え、この名前って」
心臓が激しく脈打った。
そんな、まさか。
「ミサキ、どうかした?もしかして、こいつミサキの知り合い?」
友人の指先が雑誌の一点を指し示す。視線をその小さな掲載写真から外せないまま、僕は頷いた。

―日本から来たGENZO WAKABAYASHI(14)―

…若林くんが今、欧州にいる。
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