図書館1(小説)

□君の望み
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いつもの事だった。
俺には年の離れた二人の兄貴がいる。長兄は真面目な会社員だが、次兄は遊び人で、様々な女を屋敷に連れ込んでは、人目も気にせず抱いていた。
「せめて部屋の中でやれよ?」
階段の途中で激しくもつれている男女を冷めた目で見つめる。
「部屋まで待てなくてさ。」
兄貴は笑う。
「こいつも見られたほうが感じるらしいし。な。」
女の名を呼んで、何事もなかったかのように行為を再開する。
そんな事が日常茶飯事。
だからその日、開け放たれた応接室から嬌声が聞こえてきても、別段何も思わなかった。
「…あっ…」
「可愛い顔してるくせに、どこでそんな色っぽい声を覚えたんだよ?」
兄貴のくすくすと笑う声。
「…ゃ…違っ…あっ…んっ」
通り過ぎようとして、足を止めた。
部屋を振り返る。
ソファの上の半裸にされた身体。脱ぎ散らかされた服。
兄貴に組み敷かれて、乱されているのは、俺のよく知った奴。
なんで兄貴なんかに連れ込まれてんだよ。
「…んっ…ぃやっ…っ」
それ以上無視はできなかった。
開いたドアをノックして、注意を自分に向ける。
「悪い、兄貴。そいつ俺のだから返してくれ。」
「なんだよ。邪魔すんなって。俺についてきたんだから、今は俺のだろ。」
ちらりと俺を振り返っただけで、兄貴はやめようとしない。
予想通りだ。
驚いたように俺を見つめるもう一つの顔を、俺は無視した。
「株3%」
兄貴の動きが止まる。
「取引?そんなに大事?」
兄貴は笑ってそいつを抱き起こし、後ろから羽交締めにした。ゆっくりと首筋を舌先で舐め上げていく。俺を見つめたまま。
小さな身体が小刻みに震えるのを、俺は無表情に見つめ返す。
「そうだな。…7%って言ったら?」
兄貴はそう言って、笑いながら耳たぶを軽く咬み、その奥に舌を差し込んでいく。
「…んっ…」
腕の中で歪む表情。
俺は笑う。
「2%」
「…!下げんのかよ。」
「不服なら1%」
「………。」
「残念。交渉決裂。どうぞごゆっくり。」
「待てよ。」
部屋を出ようとした背中に声がかかる。
「…5%」
俺は振り返った。
「4%」
軽い舌打ち。
「……わかった。」
ようやく俺はそいつと目を合わせた。
「岬を離してください、兄さん。」
兄貴は首を竦めて、両手を離した。
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