図書館1(小説)

□innocent love
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<岬side>

フランスからドイツへ。
三度目の逢瀬の時、若林くんは、はっきりと僕の以後の来訪を禁止した。
自分の耳を疑う。
嫌われたのだろうか。怒らせたのだろうか。
「僕、若林くんに何かした?」
「…そうじゃない。」
思わず若林くんに詰め寄ると、若林くんは困ったように視線を逸らした。
暫くの沈黙の後、小さく溜息をついてから、僕に視線を戻す。
「わからないか?」
僕を見つめ返す瞳が深みを帯びる。射るような輝きがすごく綺麗で、目が離せなくなる。
気がつくと、若林くんの顔が目の前にあった。
唇が一瞬塞がれる。
…え?
頭が働かない。体も動かない。
僕が思考停止している間に、何度も唇が合わさり、離れていく。
…キスされてる…?
まるで現実味がない。
だって、そんな事が起こるわけがない。きっとこれは何かの間違いで…。
「…んっ」
半ば強引に若林くんの舌が差し入れられ、一気に現実に引き戻される。
これは大人のキスだ。
「…っ、んっ…ふっ」
息苦しさに喘ぐ。口中を辿り、絡み付いてくる舌をどうしていいかもわからない。僕は身をよじって、顔を左右に振った。
「…わかったか?」
優しい声が上から振ってきた。
いつのまにか僕は床に倒されていて、若林くんは僕の顔の両側に手をついて、上から見下ろしている。
「…俺は岬が好きだから、これ以上自分を押さえる自信がない。」
優しい瞳で僕を見つめながら、自嘲気味に笑う。
「きっと、次は止められない。」
「…若林くん。」
「だから、もうここには来ない方がいい。」
そう言って。
何事もなかったように、体を起こしてドアに向かう。
「今夜はここで眠っていい。俺は出掛けてくるから。」
引き止めたいのに、声が出ない。何を言えばいいのかもわからない。
若林くんは一度も振り返らずに、ドアの向こうに消えていった。
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