図書館1(小説)

□夏の始まりの日(後編)
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対抗試合を終えて、自宅に戻り、シャワーを浴びる。
別れ際に岬に視線を送った。早く来い、というメッセージは伝わったはずだ。
暫くのんびり身体を休めていると、岬が到着したという連絡を受けた。
離れの建物に向かったが、そこに岬の姿はない。
迷子になったかと心配しかけた俺の耳に届いたのは、獲物を追い立てるジョンの吠え声。
ジョンは優秀な番犬だ。俺は急いでそちらに駆け付ける。
「で、何で楽しげに俺の犬とじゃれてんだ。」
遠目からは追い掛け回されてるように見えたのに、実際はじゃれつかれてるだけだと判明して脱力する。
「なんか僕、気に入られてるみたい。」
綺麗な笑顔で岬が答える。今日三度目の岬。
「名前はなんていうの?」
俺には見せない無邪気な笑顔をジョンに向ける。
お前、本来の目的を忘れてないか。
「…お前何しにここへ来たんだよ。」
「君に抱かれに。」
さらりと岬が答える。決して本心は見せない。
短い悲鳴を上げて、岬の身体が地面に倒される。やったのは俺じゃなくて、ジョンだった。
「こらっ、んーっ…」
岬の身体を前脚で押さえ付けた状態で、ジョンは岬の顔を舐め始めた。
余程うれしいのか、尻尾をはち切れんばかりに振っている。
その姿を見て獣姦かとつっこみたくなった。
岬は顔を横にむけて、くすぐったそうにするばかりで抵抗しない。
俺がした時はあんなに暴れたくせに。なんだその可愛い顔は。
かなりムッとして、このまま外でやってやろうかと本気で思う。
「どけ、ジョン。お前興奮し過ぎだ。このままじゃ3Pになっちまう。」
ジョンの体を無理矢理引き剥がし、岬を助け起こす。
ジョンは不満げに吠えながら岬の周りにまとわりつくので、岬を抱き上げ、肩に担いだ。
「触んな、こら。懐くなって。」
抗議の吠え声を無視して、足早に離れに移動する。
「大体お前なんでそんなに好かれてんだよ。」
肩の上の荷物に問い掛ける。
「ジョンは今まで俺以外の奴に懐いた事ないんだぜ。」
くすくすと背中から岬の笑い声がした。
「ふぅん。それ嫉妬?」
嫉妬…?ああ、確かに。
お前の俺への態度は犬以下だ。
「お前、覚悟しろよ。泣かす。」
部屋のドアを開けて、ベッドに小さな身体を放り投げ、その上にまたがる。
「門限何時?」
自分のシャツのボタンを外しながら、ベッドサイドの時計を見る。5時17分。
「…6時。」
鼻で笑った。シャツを床に落とし、岬に覆いかぶさる。
「そう言えば帰すとでも思った?予定変更。今夜は帰さない。家に連絡は入れといてやる。」
「ちょっと待っ…んっ」
言いかけた言葉を深い口付けで塞いでしまう。
岬は簡単に俺のリミッターを外す。
あの時も、今朝初めて会った時も、最初からあんな事をする気はなかった。
それなのに、気が付いた時にはどうしようもないほど岬が欲しかった。
「…っ…んっ…」
俺の体の下に組み敷かれた小さな身体。
数時間ぶりの口付け。甘く柔らかい唇に、理性が遠退いていくのが自分でもわかる。
「ここに来たんだから、覚悟はできてるんだろ。」
服に手を伸ばした途端、身じろぎする身体に気付き、唇を離して囁く。
「気持ち良くしてやるから、抵抗するな。」
岬からの反抗的な視線を受けとめ、表情を和ませる。
愛しくて堪らない。
今日会ったばかりなのに。
心も体も、どうしようもなく岬を求める。
「…抵抗するなよ。俺が傷つくだろ。」
真っすぐに俺を見上げる岬が、微かに笑った。



「ジョン、こらぁ、駄目だって、んんっ」
岬はよく俺の家にやってくるようになった。
そしてここに来ると、まずジョンの熱烈な歓迎を受ける。
「このエロ犬、俺より先に岬にマウントするな。」
ジョンをまず、無理矢理引き離さなくては、岬に会えない。
「岬もそんな色っぽい声をだすな。もっと抵抗しろ。」
手を貸しながら、半ば本気で言った。
「妬いてるの?」
「犯すぞ?」
岬が笑う。俺の大好きな笑顔。
気持ちのいい風が吹いて、岬の髪を揺らしていく。
太陽はまだ高い。二人で過ごす時間は、たっぷりある。
嬉しそうに笑う岬を抱き上げ、吠え立てるジョンの前で、俺は岬に優しく口付けた。



END

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