あい らぶ ゆー
□プロローグ
1ページ/2ページ
例えば、その人を見た瞬間に何か感じることがあったり。
それか、その人を見ていくうちに、何故か気になっていったり。
漫画でよく見る、一目惚れのワンシーン。
でも、そもそも…
“恋”って…なんだろう?
まだ子供の私には、よく分からなくて。
「…綺麗…、」
桜が舞う。
出会いの季節とも言うべき、春がやって来たのでした。
××××
入学式から五日目の出来事。
“彼”に初めて会ったのは、
お兄ちゃんが忘れたお弁当を届けたときだった。
「お兄ちゃん、お弁当!忘れてたよっ!」
昼休みに、弥彦お兄ちゃんがいる二年の星座科へお弁当を届けに行くと、
お兄ちゃんの隣に眉間にシワを寄せた男の人が居て。
思わず首を捻っていると、
お兄ちゃんはすぐ私のところに来て、満面の笑みで私の頭を撫でてきた。
「ありがとなぁあ!!!優衣っ!!!
俺…俺、お前みたいな可愛い妹が居て幸せだぁぁああ!!!!」
「あ、ありがとう…お兄ちゃん。
ほら、ハンカチあげるから涙拭いて?」
白鳥弥彦、私のお兄ちゃん。
涙もろくて、優しいお兄ちゃん。
弓道部に所属していて、
試合ではいいところを見せるからな!と意気込んでいる。
そんなかっこいいところもある優しいお兄ちゃんは、
私が渡したハンカチで涙を拭いたあと、おもむろに口を開いた。
「あ、優衣に俺の友達を紹介するな!
おーい、宮地ぃ!!」
「…宮地?」
お兄ちゃんの呼びかけに反応したのは、
私がさっき見た、眉間にシワを寄せている人だった。
「俺の友達の宮地だ!」
「え、えっと…宮地龍之介だ。よろしく」
困惑気味に自己紹介した宮地先輩に、
私も急いで頭を下げる。
「あっ、あの、お兄ちゃんの妹の、白鳥優衣です!初めまして!!」
「可愛いだろ、だろおぉ!!?」
「あ?あぁ…」
宮地先輩は、お兄ちゃんに気圧されたのか
曖昧な言葉を返した。
まぁ、それはそうだよね。
いきなり友人の妹に自己紹介させられて、
挙句の果てに可愛いか?だなんて聞かれるんだから…。
「お兄ちゃん、宮地先輩困ってるよ!
あ、あのすみません先輩。眉間にシワを寄せるほど不機嫌にさせちゃって…」
つい謝罪の言葉を口にすると、
しばらくしてからお兄ちゃんが笑いだした。
「ほぇ?」
素っ頓狂な声を出してしまった私を、
お兄ちゃんは可愛いなと言ってまた頭を撫でる。
それから可笑しそうに言った。
「優衣、宮地はなぁ、癖なんだよ!
眉間にシワ寄せるのが癖なんだ」
「むっ…、癖というか、無意識にというか…」
「それが癖だっていうんだよ!!」
「むっ…、そ、そうか…。
…悪かったな、白鳥妹。俺は別に気分を害したわけじゃないんだ」
ふっと優しく笑う宮地先輩に、
私は一瞬時間が止まった感覚に陥った。
「っそ…そ、そうだったんですか!
それは良かったです!!
じゃあお兄ちゃん、私そろそろ行くね!!」
「おう!お弁当ありがとなぁあ!!!」
私は、慌てているのを隠すように宮地先輩に軽く会釈してから、急いでその場をあとにした。
××××
自分のクラスに戻る前に、
私はこの胸の高鳴りを抑える為にゆっくりと廊下を歩く。
「なんだろう、これ…?」
宮地先輩の笑顔を見た途端に、動悸が激しくなって。
思わず制服の上から心臓を押さえると、
未だに早く脈を打っていた。
これが何なのか分からなくて、
逃げるように視線を地面から窓へずらす。
「…綺麗…、」
私が星月学園に入学してから五日目。
散っていく桜は、五日前と同じ美しいものだった。
そうして窓から入ってきた桜の花弁が、
私の頬を優しく撫でる。
その優しさに、私は何故かついさっき会ったばかりの宮地先輩を重ねていた。
プロローグ
(桜の花が散ると共に)
(少女の恋が芽生えた)
next謝罪→