あい らぶ ゆー

□プロローグ
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例えば、その人を見た瞬間に何か感じることがあったり。
それか、その人を見ていくうちに、何故か気になっていったり。

漫画でよく見る、一目惚れのワンシーン。



でも、そもそも…
“恋”って…なんだろう?

まだ子供の私には、よく分からなくて。





「…綺麗…、」


桜が舞う。

出会いの季節とも言うべき、春がやって来たのでした。



××××

入学式から五日目の出来事。


“彼”に初めて会ったのは、
お兄ちゃんが忘れたお弁当を届けたときだった。


「お兄ちゃん、お弁当!忘れてたよっ!」


昼休みに、弥彦お兄ちゃんがいる二年の星座科へお弁当を届けに行くと、
お兄ちゃんの隣に眉間にシワを寄せた男の人が居て。

思わず首を捻っていると、
お兄ちゃんはすぐ私のところに来て、満面の笑みで私の頭を撫でてきた。


「ありがとなぁあ!!!優衣っ!!!
俺…俺、お前みたいな可愛い妹が居て幸せだぁぁああ!!!!」

「あ、ありがとう…お兄ちゃん。
ほら、ハンカチあげるから涙拭いて?」


白鳥弥彦、私のお兄ちゃん。
涙もろくて、優しいお兄ちゃん。

弓道部に所属していて、
試合ではいいところを見せるからな!と意気込んでいる。


そんなかっこいいところもある優しいお兄ちゃんは、
私が渡したハンカチで涙を拭いたあと、おもむろに口を開いた。


「あ、優衣に俺の友達を紹介するな!
おーい、宮地ぃ!!」

「…宮地?」


お兄ちゃんの呼びかけに反応したのは、
私がさっき見た、眉間にシワを寄せている人だった。


「俺の友達の宮地だ!」

「え、えっと…宮地龍之介だ。よろしく」


困惑気味に自己紹介した宮地先輩に、
私も急いで頭を下げる。


「あっ、あの、お兄ちゃんの妹の、白鳥優衣です!初めまして!!」

「可愛いだろ、だろおぉ!!?」

「あ?あぁ…」


宮地先輩は、お兄ちゃんに気圧されたのか
曖昧な言葉を返した。

まぁ、それはそうだよね。
いきなり友人の妹に自己紹介させられて、
挙句の果てに可愛いか?だなんて聞かれるんだから…。


「お兄ちゃん、宮地先輩困ってるよ!
あ、あのすみません先輩。眉間にシワを寄せるほど不機嫌にさせちゃって…」


つい謝罪の言葉を口にすると、
しばらくしてからお兄ちゃんが笑いだした。


「ほぇ?」


素っ頓狂な声を出してしまった私を、
お兄ちゃんは可愛いなと言ってまた頭を撫でる。

それから可笑しそうに言った。


「優衣、宮地はなぁ、癖なんだよ!
眉間にシワ寄せるのが癖なんだ」

「むっ…、癖というか、無意識にというか…」

「それが癖だっていうんだよ!!」

「むっ…、そ、そうか…。
…悪かったな、白鳥妹。俺は別に気分を害したわけじゃないんだ」


ふっと優しく笑う宮地先輩に、
私は一瞬時間が止まった感覚に陥った。


「っそ…そ、そうだったんですか!
それは良かったです!!
じゃあお兄ちゃん、私そろそろ行くね!!」

「おう!お弁当ありがとなぁあ!!!」


私は、慌てているのを隠すように宮地先輩に軽く会釈してから、急いでその場をあとにした。


××××


自分のクラスに戻る前に、
私はこの胸の高鳴りを抑える為にゆっくりと廊下を歩く。


「なんだろう、これ…?」


宮地先輩の笑顔を見た途端に、動悸が激しくなって。

思わず制服の上から心臓を押さえると、
未だに早く脈を打っていた。

これが何なのか分からなくて、
逃げるように視線を地面から窓へずらす。


「…綺麗…、」


私が星月学園に入学してから五日目。
散っていく桜は、五日前と同じ美しいものだった。

そうして窓から入ってきた桜の花弁が、
私の頬を優しく撫でる。



その優しさに、私は何故かついさっき会ったばかりの宮地先輩を重ねていた。




プロローグ

(桜の花が散ると共に)
(少女の恋が芽生えた)



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