NOVEL

□命の水 ※
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手慰みにと気まぐれに創り上げた生命体は思いの外良く出来上がり、ささくれ立った己の心をようようと癒し落ち着かせた。
貴重な「彼」の血液を大量に消費して産まれたのは不定形生物。
俗に言えば「スライム」と呼ばれる生命体。

「おはよう」

赤い半透明な液体が満たされたガラスの浴槽に声を掛ける。
ゆらゆらと水面が波打ち、ゆっくりと水柱が重力に逆らい立ち上がる。
水柱は徐々にその体積を増しながら形を変える。滑らかな表面はのろりと沈み溶け崩れ、次第に人の姿を形成し、肉付きのよい成人男性の裸の上半身と臍から下までを象った。

「おはよう、フレデリック。今日は何をして遊ぼうか」

もっとも愛おしい人の一部から産まれ、同じ名を与えられた愛おしくも愚かな愛玩生物。
同じ形をしている筈なのに何かが欠けた歪なそれが、うっとりと微笑み差し出された主の手のひらに頬擦りをした。
ちろりと赤い半透明の舌が指先に絡みつく。しっとりと水気を帯びた異形の舌先が、一本一本丁寧に舐めしゃぶった。Wこの手で可愛がって欲しいWW指で中まで愛してWと、言外の合図だ。
くすりと喉奥だけで微かに笑う。

「まずはそこから出ておいで」

ガラス製の浴槽内に半分ほど満たされていた赤い水が、再び波立つ。ぬるりと形が崩れた粘液塊は浴槽から床へ這い落ち、瞬く間に赤い水溜りを作った。しかし水溜りは無遠慮に拡がる事はなく伸縮を繰り返し、やがて中央から再び水柱を立たせ人の姿を形作る。

短い髪を模した頭部とうなじを露出させた筋張った首。
筋肉の隆起が美しくも悩ましい肉感的な上半身。
盛り上がった胸筋は綺麗に8分割された腹直筋にその陰を落とし淫靡な陰影を生み出している。
括れた腰は細く、なだらかな臍から下の下腹部は何もついてはいない。
生物の艶かしさと非生物の歪さが倒錯的な淫鬱を輝かせ、危険だとわかっていても手を伸ばしたい衝動に駆られる誘惑を放っていた。
だが、造られた生命体であるこのWフレデリックWは決して男に刃向かうことはない。徹底的に従順に、思考への調整がなされているからだ。

脚組み、深く優雅に肘掛椅子に座る男の膝に、そのしっとりと水気を纏わせけれど濡れぬ頭を甘える様に乗せる。
その頬を撫でればつるりとしたゼリー状の物体の独特の柔らかさが手に伝わった。

「今日はどれで遊びたい?」

言いながら側に設置しておいた小さなチェストの引き出しを開ける。中には、大小形様々なディルド、バイブ、ローターや果てはエネマグラなどあらゆる性具が詰め込まれている。どれも白、黒、あるいはごく薄い肌色に近いピンクに色彩が統一されていて、赤い肌を持つフレデリックによく映えるようにと誂えられたものだ。
卑猥極まりない性具達に、羞恥に顔を歪ませ赤い頬に更に紅みが増したかに見えた。
「さあ、好きなのを選んでごらん…?」
恥らうフレデリックを促し、それらに眼を向けさせる。震える指先が手に取ったのは、やや大ぶりのアナル・パール。ウミガメの卵ほどの大きさだろうか。乳白色のそれは赤い肌の彼にはよく映えるだろう。
「いい子だね。四つん這いになって、お尻を向けてごらん。
お尻は出来るだけ高くあげるんだよ」

言われた通りに姿勢を変える。赤い水溜りから生える上半身と下腹部だけの身体が、さらに筋肉質の見事な長い脚が形成され四つん這いになり、見るからに弾力のある臀部が男に向けられる。しかし二つに割れた双丘の奥には何もない。男はその事実に何一つ動揺せず、つぷりと、本来ならば排泄口のある部分へ指を沈めた。ふるりと赤い肢体が震える。肘の力が抜けて上半身だけ伏せった姿勢になり、より一層男へ腰を掲げた獣の交接の格好となった。本来ならば精悍な顔立ちは早くも淫欲に蕩け、熱い吐息を零している。
「まだ指の先だけなのに、もうヒクついてる」
いやらしい子だね。と優しく言われ、半透明の身体はなおも揺れる。喉からは意味をなさない途切れ途切れの吐息しか漏れ聞こえない。くるりと、二本の指をゼリー状の皮膚に穿った孔に潜らせる。とたんに甘く蕩け切った悲鳴が上がった。
「まっスター…っ!」
「うん?」
「…ねがっしまっ、さき…の」
「なんだい?」
「おおきっの、下さ…!」
彼の声帯は不自由だ。不定形生物という性質上、音を反響させる諸器官はすこぶる形成し辛い。声帯が最もたるもので会話するにも一苦労するが、それでもフレデリックは健気に訴えた。
取り出したパールを摘まむ。紐で数珠繋ぎになっている先端の一つ目をひくつく赤い孔へ押し当てる。ひゅっと息を飲む音が聞こえた。

ずぷぷと一つ目のパールを孔に埋め込む。

「…ぁあっあ!」

難なく飲み込んだ臀部が大げさなほど震えている。半透明な身体は内部に飲み込んだ乳白色のパールくっきりと透かし、蠢く体内を晒した。

「フレデリック、ここに何があるか教えただろう?
直腸だ。ちゃんと形を作ってごらん」
「っ…は…い…」

赤いゼリーに埋没するだけだったパールの周辺がわななき、ゆっくりと人の肉路に似た曲がりくねった器官を形成した。ひくりと断続的に蠕動する肉路の動きが容易に見て取れた。

「ふふ、きちんと出来たいい子にはご褒美をあげよう」

白く細い男の指が、二つ目のパールを孔に潜らせる。出来上がった擬似腸腔に二つ目のパールが難なく入り込み赤い柔らかな身体が一層痙攣する。つながりあったパールを次々と埋れさせるとなお甲高い法悦の悲鳴が上がった。8つ目の最後のパールを埋め終われば、擬似腸腔にみっしりとパールが詰め込まれ、蠕動する閉路にそって幾つもの球がゆっくりと奥へ向かって蠢いている。すっかり力の抜けきって不規則に痙攣する四肢は時折崩れ溶け形をなくし掛けて赤い水溜りに戻ろうとしている。唯一頭部周辺だけが明確な形を保っているが、フレデリックの精悍な顔立ちとはかけ離れた淫蕩に染められただらしの無い相貌を晒していた。

「気持ちがいいかい?」
「は…いぃ…っ」

すすり泣きに近い声が、細く長い肯定を返す。それに気を良くした男は臀部から僅かに出されたままの、パールの持ち手に指を引っ掛けた。

「それじゃ、もっと良くしてあげよう」
「あ、マスっ待っ、ぁああああああ??!!!」

ぐぷっずぽぽっ、ぶぷっ、ぐぽぽぽ。

はしたない破裂音と共に一気に引き抜かれたパールに、眼を見開いて淫蕩に溶け切った絶叫を上げた。
みっちりとパールに吸い付いていた擬似腸腔の肉壁が力任せに抜かれる球に巻き込まれ、ぽっかりとひくつきながら締まらなくなりあいたままの孔の淵にわだかまっている。悦楽から溶け崩れ掛けていた四肢は、絶頂のためか形を取り戻して強張り時折跳ねては痙攣を繰り返していた。
わななく孔に指を乱暴に突き入れる。だらしなく綻んで粘液を垂らしていたそこは途端に指を食い締めた。

「ます…ター…」
「うん?」
「っねが、しま…、もっと、大きく…欲しっ…」
「ふふ、ここをこんなにキツくして、まだ欲しいんだ?」

首を傾げながら問えば、こくりと羞恥と悦楽に染まったかんばせが頷く。脱力し切ったかに見えた赤い腕が自らの臀部を割り開いて、弛緩した筋肉が閉じようとして弱い収縮を繰り返す孔を見せ付ける。内臓を模した赤い壁道が、体表から透けて見える様は卑猥そのものだ。

「欲しぃ、です…ここ、に…っ」

くぷっと粘音を立てて自らの指で中を暴く。男の眼下には、額づいて臀部だけを高く掲げ、排泄孔を開き切ってまるで柘榴の様に赤い肉を晒して強請る異形が居た。従順そのものの姿にうっとりと笑みを零す。

「よくおねだりできたご褒美をあげよう。これをあげるから、あとは自分で擦るんだよ?」

手に取ったのは、返し付きの極太なディルド。シリコン素材で出来ており艶消しのされた真黒い形は凶悪そのもの。つうと赤いフレデリックの臀部をなぞり、揺れる孔の淵へ先端を僅かに埋没させ、後は己でさせるために筋張った手に持たせる。躊躇がちに突き刺さったディルドを支える手は大仰な程震えていた。
焦れた赤いフレデリックは泣きすがる。

「あっ、ます、たー…!」
「ほら、自分で好きな様に動かして」「で…も…」

見て居てあげるからと後押せば、赤い柔肉に突き刺さった黒いディルドをゆっくりと持ち変え、引いては押入れ始めた。初めは少しずつ、茎の部分に歪に付いた小さな返しが引こうとする動きに逆らって壁肉が掻き出しその度に嬌声が上がった。
「あっぁっ、まっすたー…、恥ずかっしい…!」
「可愛いよフレデリック…もっと乱れていいんだよ。ほら、もっと強く、深くに入れて…」

男に抗う術など持たない愛玩生物は、崩れ掛けた羞恥心を促す言葉に容易く瓦解させ、更に己の中を擦り深くに押し入れる。半透明の身体から透けて見える擬似腸腔を真黒く凶悪な性具が蹂躙する。自らの手で進退を繰り返しながら肉路を引き裂いて貫く。その度に異形の身体は跳ね上がって溶け崩れ掛けた爪先がすぐに形どられぴぃんと張り詰めた。
ぐちゅっぐぷっ、ずぽぽっぐぽっごぽん。
空気を含ませた猥雑極まりない粘液音が、無機質な部屋に響き渡る。元々開き切っていた擬似排泄孔はさらに拡張され、彼の手首程の太さのあるディルドの根元まで咥え込んでしまっているほど。時折、淵が中に入りきってしまうほど突き込んでおり、半透明な下腹の肉が押入れられた質量に何度も膨らんで見えた。肉路がきゅぅうううと引き絞られ、隙間なく性具に吸い付いて断面図のように見える。

「あっ、イク、ますたーっ!イキまっ…!あっぁあああぁああああああ!」

やがて限界を迎えたのか、一層深くに押入れ、淵まで肉路に埋め自らの指すらも突き入れて全身を痙攣させる赤いフレデリック。
ゼリー状の粘液塊の身体が一際柔らかそうにぷるぷると震え、ぐったりとその身を床に横たえた。下腹の腹筋下に真っ黒な性具がまるで生きているかのように蠢いている見えた。

「とても可愛かったよフレデリック…お疲れ様」

異形が絶頂に身をわななかせる姿をつぶさに見つめていた男は、眼前の偉業の狂態に煽られた様子もなく涼し気だ。しかし、異形のフレデリックはそれに気付くよすがもない。彼は、一切の思考が取り払われとても原始的な生物に作られたからだ。トロリと絶頂に溶けた赤い相貌は、やがて赤い水溜りに沈んでいきその横たえた身も単なる水のように拡がって行く。男が満足した風であると、それだけを僅かに感じ取れるフレデリックは、今日の役目は終えたとばかりに元のかたちへと戻っていく。やがてただの赤い水溜りに溶け切ると、音もなくガラスの浴槽へ這い戻る。たぷんと静かに揺れる水面を認めると、ようよう男は腰をあげ、赤い水面を愛おし気に撫でて微笑む。その男の手に応えるかのように、小さな水柱が立ち上がり、出来の悪い手の造型を取って男の手に触れ、再び水面へ溶け落ちた。

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