おとしたのーと。

□#07 繋がりたい、繋がれない。
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「つくづく君は…僕の予想の上を行きますね」


気を失って倒れた緋露の頭を膝に乗せ、柔らかな髪を撫でる。

この状態では明日の朝まで目覚めないかも知れないと思った僕は、彼女の自宅に電話を掛けた。





pururururu…


『ーーはい、もしもし』

「ああ、紅坂さんのお宅ですか?六道です」

『六道君?あら、いつも緋露が御世話になってます。まだ娘は帰って来てないのだけれど…もしかして、その緋露の事かしら?』

「はい。今日は疲れてしまった様で緋露さんが寝てしまったのですが…此方に泊まらせても大丈夫でしょうか?明日の朝には帰らせます」

『まあ…。ごめんなさいね?御迷惑じゃなければそうして戴けると助かるわ』

「分かりました。ではまた」

『ええ。また明日』





電話を切って、近くの机に置く。

一度緋露の身体を起こしてその背と膝裏に腕を滑らせると、彼女の身体を持ち上げた。


「取るに足りない、つまらない世界だと思っていたのに…君と居るのも悪くない、なんて僕らしくない」


腕の中の存在をベッドに横たえると、自らはベッドの端に腰掛けた。


「10分…いや、5分だけ、僕に君との時間を下さい」


額同士を突き合わせて、彼女の意識の中へと潜る。



すると。




キンッ


「?!!」


弾かれる様な感覚がして、自分の身体へと意識が戻される。

こんな事は初めてだった。

普通ならばあり得ない。

少しでも波長に重なりがあれば、其処から同調していけるというのに。


という事は、つまり。



「相殺された、か…」


全く同じ波長同士の片方を180°反転させてぶつけると、波が消え去ってしまうという現象。


繋がりを求めた僕らは、皮肉な事にもその関係にあるらしかった。



彼女が痛みを堪えた意味は、何だったのだろう。

僕が心を傷ませて彼女の腹を抉った意味は、何だったのだろうか。




(嗚呼そうか。やはり僕は、)


世界から嫌われて、あと一歩で届くはずだった温かさも手に入れる事は叶わないのか。







残り八時間。

それは、僕に与えられた、彼女と共に過ごせる時間。





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