おとしたのーと。

□#07 繋がりたい、繋がれない。
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三日なんてあっという間で、既に今日は金曜日。

次に来れる時は何日後になるか定かでなく、しばらく皆に会えないかも知れないと思うと寂しさが湧いた。


今日は犬と千種は出掛けるそうで、ヘルシーランドには骸と私の二人きり。

今晩の夕食を終えて、私が来れない土日の分だけでもと料理の下ごしらえをした食材を冷蔵庫に入れる頃には日はすっかり沈んでいた。最近は骸に送ってもらうから少し遅くなっても大丈夫だと思っていたけれど、流石にそろそろ親も心配する時間だろう。


「骸に言って来ないと、」


一人で帰るにしても、送ってもらうにしても、どちらにしろ黙って帰る訳にいかない。する事を全て終えた私は、骸が居るはずの彼の自室へと向かった。







*+*+*








骸は予想通り、自室に居た。

居たのは居た、のだが。


(寝て、る…)


彼は窓際のソファに座ったまま、片肘を付いて眠っていた。


(疲れてた、のかな?)


彼の脇には読み掛けなのか開かれたままの本と、三つの尖った先端を持つ、短い槍の様な物が置かれていた。


(これ、此処に置いとくと危ないよね…移動しておこう)


手に持ったそれは蛍光灯の光を反射して、鈍く光る。吸い寄せられる様にして私はそれの先端に手を伸ばしーー



がしり。


「クフフ…それは君が触ってはいけない物ですよ」


すんでのところで腕を掴まれた。


「骸…起きてたの?」

「いえ。ですが何やら不穏な空気がしたので」


寝起きであるはずなのに、ヤケに強い視線で私を捉える。


「触っちゃいけないって…どうして?怪我するにしても、そんなに深く刺す様な事しないよ?」

「深い傷で無くとも、この三叉槍によって傷付いてはいけないのですよ。これによって傷付くのは、僕と“契約”した事になるのですから」


私は、彼の言っている意味がよく分からなかった。傷を付けるだけで契約するという事も、そもそも彼の言う“契約”の意味も。


「その“契約”って、具体的に言うとどういう契約なの?」

「そうですね…。僕と繋がる、といった所でしょうか」

「なら、私としても良いんじゃないの?」


繋がる、というだけなのなら。
確かな繋がりを持たない、私達だから。

私が言うと、骸は目を大きく見開いた。


「な、何を言ってるんですか…!僕はそんな事、望んで居ないのに!」

「骸が望まなくてもね、私は骸との繋がりを望むの。私は貴方とそれなりに時間を過ごして来たけれど、いつも貴方は何処か遠くへ行ってしまう気がしてた。遠く離れても繋がっていられると言うのなら、私はその繋がりが欲しい」


私が彼の目を見て言うと、彼は息を飲んで押し黙った。きっと私の真剣さは伝わっただろう。


「……君はそれで、後悔しないんですか?」


小さく、ゆっくりと頷いた。
骸は溜息を吐いて掴んでいた私の腕を一度放すと、隣に座った三叉槍を握る私の手に添える様にして、共に握った。


「傷口は、僕が治るまで幻術で補います。強い繋がりが欲しいなら、身体の中心に、深くこの槍を刺して下さい」


お腹の辺りに向けて、勢い良く三叉槍を突き立てる。


『っ、あぁあああぁああ!!』


じわりと深緑の制服に血が滲み、黒く染まって行く。
力を失った私の手の代わりに、骸が突き刺さった物を抜いて、私の手を握った。


「……契約は終わりました。傷は塞いだのですが…すみません。後しばらくは痛むと思います」


滲む視界の端で、彼の指が涙を拭う。
泣きそうな笑顔を浮かべている彼は、申し訳なさそうで、でも少し嬉しそうだ。


「むく、ろ…」

「はい」

「これで…っ“さよなら”は、無しだ、よね…?」


微かに微笑んだ骸の表情を最後にその目に映し、私の視界はブラックアウトした。





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