おとしたのーと。

□#05 僕らを別つ道。
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「今更だけど、骸は嫌いな食べ物ある?」



重箱の中から取り分け用に持って来た紙皿におかずを分けながら、彼に問う。蒼は机から少し離れた所で、皿に移して与えた猫缶を食べていた。

お昼になって、骸が別室から呼んで来てくれた犬と千種もテーブルを取り囲んでいる。千種は行儀良く黙って椅子に座っているけれど、犬は椅子から身を乗り出さんばかりに私の手元を覗き込んでいて、正直少し鬱陶しい。


「嫌いな食べ物ですか…辛い物とかが苦手ですかね」

「じゃあ好きな食べ物は?」

「チョコレートです」


好物を聞いた時に食い気味に告げられた物を聞いて、思わず作業していた手を止め、骸の顔を凝視してしまった。

…大体、チョコレートはおかずになり得ない。


「…はあ、犬がガムばかり食べてるのは分かったけど、骸もこれじゃあ今まで栄養ある物食べてなかったのも納得だよ」


呆れて溜息しか出ない。
「お陰で緋露の手料理が食べられる事になりましたよ」とか言ってるのは聞かなかった事にする。


「犬はお肉ばかり見てるから好きな物分かり易いんだけど…千種は好き嫌いある?」

「…別に」


言葉少なだけれど、食事を作る身としては一番楽な返事が返って来た。
要するにあれか、犬には食べやすそうな野菜を入れて、後は骸が食べられない辛味の料理を避ければ良いのか。
千種はあまり好き嫌いしないから、他二人に比べて背も高くなったのかな。骸と犬も、日本人男児と比べると結構高いと思うけど。


「ん、分かった。じゃあこれが骸で、これが犬、後これは千種の分ね」


取り分け終わった皿を三人に渡す。
犬が皿に乗せられた野菜に文句を垂れていたが「野菜食べないならお肉も無し」と言うと大人しく引き下がった。


「それでは、いただきます」


各々が手を合わせ、口へと物を運ぶ。
緊張してその様子を見ていると、三者三様の反応が返って来た。


「…美味しい」

「これは…毎食でも食べたくなりますね」

「緋露!お代わりあるびょん?!」


どうやら気に入って貰えた様で、ほっとした。

さっさと皿を空にした犬に苦笑して、差し出されたそれに次の料理を装う。


「お口に合った様で良かった。でも骸、流石に三食作るのは難しいかな」

「そうですね…残念ですが、いつかそんな日が来る事を望む位は良いでしょう?」

「そう…だね」


少し、彼の笑顔に寂しさが混じっている様な気がして、胸が苦しくなった。

彼はどうしてこうも、時々何かを諦めた表情をするのだろう。
そして私はどうして、彼のそんな表情を見ると胸が痛むのだろうか。





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