折れた翼は―

□標的4.5
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輝羅がヴァリアーに来てから、早くも1年以上の時が経った。


数日前に8年もの長い眠りから覚め、再びこのヴァリアーのボスの座に舞い戻ってきたザンザス。

"ゆりかご"から今までの間に何があったのか、並びにヴァリアーが今置かれている現状を報告する為に、彼が帰還してから初めての会議が開かれた。




「ーーー…以上がここ数年を纏めた結果だぁ゛」


何年もの間に起こった事件をボスに聞かせるだけの短さに纏めるまでには数日の時を要してしまい、この会議を開くのに時間が掛かってしまった。

報告を終えて着席したスクアーロを始めとする幹部達の目の下には、濃淡の違いはあれど、皆揃って隈が出来ている。


「そうか」


「……あと、桜木輝羅って娘がヴァリアーに入ったぞぉ。まだ戦闘には出していないが、能力は充分あると見込んでいる。この報告書も、此処1年半程のは全て奴がやったんだぁ」


目を閉じて黙っていたザンザスが、瞼を持ち上げる。

自らの右隣で言葉を発していたスクアーロを一睨みすると、「呼んで来い」と顎をしゃくった。


「あ、輝羅なら俺が呼んで来るぜ」


ししっ、と独特な笑いを漏らすのは、此処に一人しか居ない。

普段雑用なんて頼まれてもやらない彼が名乗りを挙げるのは初めての事で、その場に居た者は皆、思わずベルの方を見た。


「ーーだって姫のエスコートは王子がするのが適任じゃね?」


笑って言ったベルは椅子の肘掛けをひょいと飛び越えると、重厚なドアを押して、その先へと消えた。














「ハッ、どうやら輝羅とかいう奴はベルに好かれてるらしいな」


沈黙を破ったのは、ドアから一番離れた場所に位置するザンザス。

その言葉に反応して、口を閉ざしていた者達が次々に言葉を発した。


「輝羅はベルに一番言う事聞かせられる奴だ」

「仕事憶えるのも早かったからなぁ゛。能力もそれなりにあると言って良いだろう」

「きっとボスも気に入ると思うよ」

「そうねぇ…輝羅ちゃんは皆に好かれているもの」


口々に一人の女を褒める幹部達。

前とは違う部下達の様子に、顔に出さずとも怪訝に思っていたザンザスだが、ベルが去ってから閉じられていた扉が再び開くと、そちらに目を向けた。






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