折れた翼は―

□標的8
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「スク〜、輝羅ちゃ〜ん、ご飯出来たわよぉ〜!!」

『あっ、ルッスだ! スク、先に行っても良い?』

「好きにしろぉ」


「ありがとう!」とにこやかに笑って駆けて行く輝羅。
その背中を見送りながら、俺は溜息を零した。


「……ついに今夜、か」


昨晩の報告書をザンザスに提出しに行った際、言い渡された次なる指令。
それは、輝羅を連れた初めての暗殺任務だった。

彼女は任務遂行に十分な実力を付けた。それは、毎日手合わせをしている一番良く理解している自分が今回の指令を出した本人に告げた事でもある。
ただ、納得がいっていないだけ。
実力はあっても、再び血に手を染める事を、彼女が厭わないとは限らない。


(随分と情が移っちまったみたいだなぁ゛…)


そう、気持ちの問題なのだ。
彼女が此処に居る限り、いつかは巡ってくる案件。
遅かれ早かれこうなる事は理解していたが、普段の彼女を見てしまうと自然に考えない様にしていた。


(仕方がねぇ。今回は、フォローに回ってやるかぁ゛)


本来なら、一般隊士数名で事足りる任務内容。その程度、自分なら一人で十分である。其処へ輝羅と自分の二人を送るという事は、少なくとも輝羅の実力を試す、という目的もあるのだろう事は予想が付く。
そして、それがあのボスなりに心配した結果なのだという事も。


(ったく、ザンザスも輝羅に対しては甘ぇよなぁ)


ずっと付き従って来たボスに、唯一気に入られた存在である輝羅。
二人の関係は歳の離れた兄と妹の様で、それでも上司と部下、といった上下関係は崩れない状態に落ち着いていた。
それは言葉にすると簡単な様で、実の所は難しい距離感だ。
馴れ合いでは決してないそれは、少し傾いただけで簡単に違う物になってしまう。
誰にも真似出来ない事が出来たのは、彼女が彼女だったからこそたり得たのだろう。



「まあ、俺もなんだろうがなあ゛」



自覚はある。
共に時を過ごして来て、自分も他の幹部等も、輝羅を妹の様に見ている事に。


見守るのが己の務めだというのなら、どんな事でも彼女がその足で乗り越えられるまで、俺は見守り続ける事を誓おう。







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