letter for you...

□24通目
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「獄寺君!」

ドダダダーーバタンッ


「……何だ?」


沢田の叫ぶ様に獄寺を呼ぶ声と、誰の物かは判らないが階段を駆け降りる音、そして玄関の方から勢い良く扉を閉める音が聴こえ、何事かと最後に音がした玄関へと向かった。


「う、少し…見ちまった…」


其処にはお腹を抑えてしゃがみ込む、獄寺の姿があった。


「獄寺…?どうしたんだ?」


私は突然体調を悪くした彼に心配になって駆け寄ると、玄関の扉越しに女性の声を聴いた。


「私は問7を解きに来ただけなの。貴方は姉を異性として意識し過ぎよ」

「大丈夫か…?」


更に顔を青ざめさせた獄寺の肩に手をやると、扉の向こうから不穏な気配がした。


「ポイズンクッキング、溶解さくらもち」


鍵とチェーンすらも締められていた筈の扉が、煙を上げてドアノブが溶け出すと同時に、勢い良く開け放たれた。


「うぎゃあああっ!!」

「獄寺っ!?」


ピンク掛かった長髪の、綺麗な妙齢の女性の顔を確認したと同時。
獄寺は断末魔を上げてその場に倒れ込んだ。









「どうビアンキ…わかる?」


獄寺の叫びに慌てて駆け付けた沢田と山本によって獄寺は沢田のベッドへと運ばれ、獄寺の姉だと言うビアンキさんが例の問題を確認してくれる事になった。
因みに獄寺は、ビアンキさんを異性として認識しているのではなく、どうやら何かしらのトラウマを持っているらしい事は、彼の尋常じゃない様子に自ずと知れた。


「そうね…、こんなものどーでも良いわ」

「んなーーっ!!破いたーーー!!!」

「大事なのは愛よ」


訳の分からない理論と共に破り捨てられたプリントが、見るも無惨に散っていく。


「どーでも良くないよっ!落第かかってんだよーー!!」


叫び、ビアンキに掴みかかろうとする沢田を山本が抑えていた所、部屋の入り口が開けられてスーツの男性が現れた。


「返事が無いので上がらせて貰ったよ」


三浦さんの父親だと言う彼は、大学で数学を教えている、らしい。
それなら私なんか要らなかったんじゃないか。そう思ったけれど、沢田を助ける為に来た事に意味があるのだと思い直す事で、何とか平静を保った。






最終的に、三浦さんの父親も計算を間違え、リボーンが解答を教える事でその事件は方が付いた。


purururu…

「あ、はい。雲雀さん?」


三浦さんは迎えに来た父親と共に家へと帰って行き、ビアンキさんもリボーンが寝てしまったのならと、沢田家から辞して行った。
その後、暫くして起き上がれる程に回復した獄寺や山本、そして沢田と遅めの夕食を食べていた所、携帯に着信があった為、リビングを出て携帯の通話ボタンを押した。


『さっき電話で頼まれた事だけど、教師と連絡がついたよ』

「あ、ありがとうございます。ーーそれで、結局あれは、先生のミス…だったんですか?」

『いや、あの教師が言う所には《大事なのは答えに辿り着こうとするプロセスなのであって、答えでは無い》と言う事らしい。答えが間違ってても、解こうとした痕跡が残っていれば、その問題に関しては間違ってても良いみたいだよ』

「そうでしたか…。すみません、お手数お掛けしまして。ありがとうございます」

『……別に。多分、教師は一人では解けない問題を出す事で、他人に頼る事も大事だとか教えようとしたんじゃないの。僕からしてみれば、そんなの馬鹿げた話だけどね』

「他人に頼る事は、そんなに馬鹿げた事、ですか?」

『……………何、なんか文句でもある訳?』


不機嫌そうに返ってきた返事に苦笑して、私は「いいえ」と応えた。


「今回はありがとうございました。また今度、仕事手伝いに行きますね」

『前回みたいに、一日で終わらせたりしないから、覚悟しとくんだね』

「…分かりました。それじゃ、おやすみなさい」

『じゃあね』


プツンと切れた通話は、私の心に少し温かさを残した。
私が彼を頼るのを、彼は否定しない。
其処に僅かながら安堵して、私は食事の席へと戻った。




答えが分かったなら、皆に《答え》を伝える必要は無いだろう。
分かって居なかったとしても、彼らは自分達だけで完結する事無く、周囲を頼るのを恥ずかしい事とはしなかった。

きっとそれが、この問題の《答え》なのだ。





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