letter for you...
□16通目
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2時間程の上映時間を経て、私達は少し離れた所にある私のお気に入りの喫茶店に向かう事になった。
私が選んだ映画はアクション物。
この選択をしたのは、山本が好みそうな物を選んだ為だ。私もアクション映画を観たりする事だってあるが、どちらかというと観るなら一人でミステリー系統の物が多い。ちなみに今上映中の物でホラーやコテコテの恋愛物があったが、それは端から除外した。ホラーはともかく、最後のは私にしろ山本にしろ、絶対に観たいなんて思わないと言い切れる。
ーーホラーは、ただ私が苦手なだけだが。
「結構この映画、面白かったのな!」
「そうね」
「ライバルが主人公にバコーンてされてバビューンてした所とか、スカッとしたぜ!」
「………私は今、貴方の説明に頭を痛めているよ」
主人公に殴られ飛ばされたライバルでは無いけれど、移動中に山本の映画感想を聞いている私の頭も、彼の言葉によって殴られたみたいだった。
「此処が田嶋の言ってた店か?」
「ええ。中々落ち着ける場所でしょう」
「何つーか、こう…古そうな建物なのな!」
「……其処は、せめてレトロって言って欲しかったな」
決して真新しさがある訳では無いけれど、小ざっぱりとした店内はダークブラウンを基調としていて照明も温かみの感じられる色合いだ。
「んで、田嶋は何頼むのな?」
「そうだな…。此処は珍しく、紅茶の種類も豊富なんだ。今の気分だと…オレンジペコだな」
「……それ、昼食じゃねーと思うのな」
山本に苦笑され、「分かってるけど」と少しムッとして言いつつ、机の端に立ててあったメニューの一つを選ぶ。
「私はそんなにお腹空いてる訳じゃないし、サンドイッチにするよ。貴方はどうするの?注文決まったなら店員呼ぶけど」
「んじゃ、俺はオムライスで」
「了解」
近くに居た従業員を呼び、注文したい品名を教えれば再度注文表が読み上げられる。間違いも無かったのでそれに是と答え、去って行った所で山本が質問を投げ掛けてきた。
「そーいや此処、店員少ないのなー。さっきの男の人合わせても、三人しか見てない様な…」
「此処はマスターと奥さん、そして息子さんの三人家族でやってるらしいからな。もっとも、息子さんは学校が休みの休日しか出てない様だが」
これは何度か来た中でマスター自身から聞いた話だ。中学生が一人で来るのは珍しいのか、此処に来ると夫婦揃って話し掛けられる事も多い。気さくで温かみのある二人は、そのまま店の雰囲気にも影響しているのだろう。
カランカラーン
入り口のドアに付けられたベルが、軽快に音を鳴らす。
「いらっしゃい。……おや、誰かと思ったら」
聴こえてきたマスターの声から察するに、今来たのはどうやら常連客の様だ。この様子だとマスターはその客に掛かり切りになって此方へは来ないのだろうか、と考えていた所で。
「此処のコーヒーはうめーからな。気に入ったからまた来たんだぞ」
「っ、熱!」
聞き覚えのある声が返事をして、丁度奥さんが置いてくれたカップを、驚いて動かした手で倒してしまった。
「大丈夫か?!」
「だ、大丈夫?薫ちゃん今氷持ってくるわね!」
いくら顔は見えないとはいえ、狭い店内なので彼らにも聴こえてしまっただろう。それを裏付ける様に、先ほどの驚きの元兇から声が掛かった。
「薫…?其処に居るのは、もしかして田嶋薫か?」
ーー今、沢田は居ない。
その中で私は、彼のあの視線から逃れられるのか。
手の痛みを堪えながら、漠然とそんな事を考えた。
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