letter for you...

□9通目
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「もしかして、薫ちゃんじゃない?」


名前を呼ばれて目線を上げると、見知った顔が視界に飛び込んで来た。


「あ、奈々さん…」


母の友人の一人、沢田奈々さんだ。
学生の頃の後輩だという彼女は、何度か私達の家にも来た事があったので憶えていた。


「こんにちは。いつも母がお世話になってます」

「こんにちは。いえいえ、此方こそ田嶋先輩にお世話になってしまってるわ。ところで、今日はお母さん居ないのね?」

「はい。仕事休みなので、今日もお友達と泊まり掛けで遊びに出掛けましたよ」


困った様に笑えば、「あら、またなの?」と奈々さんも微笑んだ。私よりも随分と母との付き合いが長い為か、昔から変わっていない母の様子に安心しているのだろう。


「じゃあ、今日の夜、ウチにご飯食べに来ない?」

「え?」


思ってもみない提案に、目を瞬く。
口を半開きにしている私は、はたから見ると相当間抜けな顔をしている事だろうと、頭の片隅で思った。


「お父さんは確か単身赴任中でしょ?一人分の夕食だけ作ると、簡単に済ませちゃったりするし、何より皆でご飯食べた方が楽しいわよ」


来てくれると嬉しいんだけど、と笑う彼女に遠慮して辞退する事は出来なかった。御言葉に甘えてお邪魔する旨を伝えると、笑みを一層濃い物にして、心から嬉しそうに彼女は笑った。




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