letter for you...
□4通目
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教室に入ると、数人のクラスメイトが「おはよう」と声を掛けてくれるのに応え、自分の席に着く。
以前よりも掛けられる声の多さにまだ少し戸惑うけれど、それは照れである事は俺も自覚していた。
(何が、入ってるんだろう…)
少し隠す様に脇に抱えるのは、前回同様、シンプルながらも自分からしてみれば何処か上品な様に感じられるデザインの封筒。
流石にこの大きさだと周りの人にもラブレターだとかは思われないだろうとは思いつつ、それでもやはり恥ずかしさが込み上げて、すぐさま机の引き出しの中に押し込んだ。
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朝のホームルームが終わり、1限目の授業が始まった。
ーーーいつも通りのHR、だったら良かったのだが、最近の俺はとことんツイてないらしく、帰国子女だという転校生の獄寺隼人という不良に絡まれてしまった。
また新たな悩み事が増えそうだ。
今日の1限目は英語。
中学に入ってから始まった英語の授業は、まだ初歩段階だとは言っても、馬鹿ツナ呼ばわりされる俺にとっては易しい物でも何でも無く。
既に俺は、他の教科同様にこの教科も例外無く苦手意識を持っていた。
(ーー皆が黒板に集中してる今なら、気付かれにくい…かな?)
視線を泳がせて周囲を見渡すと、大半は始まったばかりの英語の授業に必死に追い付こうと授業を真面目に聞いている生徒で、残りは内職(他授業の課題とか)をしてる生徒、頭が船を漕いでいる生徒だった。
列の最後尾、とは言わないけど、それなりに後ろの方に位置する席順の俺は、教壇からも離れている。
ーー俺はそっと、例の封筒を机の中から半分程、取り出した。
前回と同じ、だと思っていたけれど、少しの違和感。
改めて眺めて、分かった。
封をしてあるのは、黒猫をかたどったシールだ。
男子かな?とも思っていたけど、これはもしかしてーー
「ーー沢田、珍しく今日の授業は寝てないみたいだな。この文章、訳してみろ」
「え、ぇえ?!」
「なんだ、授業を聞いてた訳じゃないのか?」
突然指名されて、驚いてしまった。
「え、えと、いや、その…
(やっべー!マジ聞いてなかったぁああ!!)」
今更後悔しても遅いのだろうけど。
机の中身に意識が向いていた俺は、慌てて教科書と黒板を交互に見比べる。
ーーけど、正直どこをやってるのかサッパリだった。
「先生、」
そんな時に、教室の隅から声が上がった。
「……なんだ、田嶋」
窓際最後列。
天井に向けて、真っ直ぐ伸ばされる右手。
二つの三つ編みを肩から垂らし、眼鏡を光らせるその女子は、典型的な「模範生」と呼ばれる様な出で立ちで。
「その英文、スペルが間違ってます」
「ーーおぉそうか、悪いな」
当然の様に学級委員をこなし、ダメツナと呼ばれる俺とは似ても似つかない、真面目で学力も学年トップクラスの生徒だった。
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